第5部 第4話 黒い航跡
星図都市に戻ると、各世界の代表が集まっていた。
北航路の無断通行について報告すると、会場がざわめく。
「やはり統合は拙速だったのではないか」
「軍事通行をもっと厳しく制限すべきだ!」
反発と不安の声が入り混じる。
(誰も悪くない……でも、この声のままでは航路が分断される)
胸の奥の環が速く回り、喉が乾く。
(俺が……この声をまとめるしかない)
エファが記録板を掲げる。
「北航路だけじゃない。南と東の航路でも灰色の濁りが観測されている」
「同時多発……?」ガルドが眉をひそめる。
「偶然じゃない。誰かが影を意図的に呼んでいる」
(影を利用する……何のために?)
胸が重くなる。
深淵で黒点と対話した時の記憶が蘇る。
(あれはただの自然現象じゃない。意思を持つ“記憶”だった)
オルビタが再び航路へ出る。
霧の中に、黒い航跡が残っていた。
それはまるで“導き”のように遠方へ伸びている。
「追うか?」ガルドが尋ねる。
「行こう。これを放置すれば次はもっと大きな事件になる」
(これは罠かもしれない……でも、行かずに後悔する方が怖い)
舵輪を強く握ると、胸の奥の環が鋭い音を立てた。
航跡の終点に、小型の補給拠点があった。
そこには影の残滓を封じ込めた黒い容器が山積みになっている。
「これは……兵器化している?」
エファの顔色が青ざめる。
(こんなものを大量に……どこへ運ぶつもりだ)
喉が渇き、指先が冷たくなる。
背後で船の音がした。
黒い帆を掲げた艦隊が接近してくる。
「迎撃するぞ!」ガルドが剣を抜く。
(ここで戦えば、相手を刺激する。
でも、証拠を持ち帰らなければ何も始まらない)
迷いが胸を締め付ける。
「退く! 証拠だけ確保して戻る!」
オルビタは容器の一部を積み込み、光の航路へ逃れた。
(これで一時は防げる……でも、敵は確かに動いている)
胸の奥の環が不穏なリズムを刻む。
(次は必ず、正体を突き止める)
都市に戻ると、監視士が駆け寄ってきた。
「報告! 南航路でも同じ容器が発見されました!」
胸の奥の環がさらに速く鳴る。
(もう逃げられない。これは……星々全体を揺さぶる陰謀だ)