第5部 第1話 新しい星図
統合儀式から三ヶ月後。
星図都市はかつてない活気に包まれていた。
広場には各世界の旗が掲げられ、交易や文化交流が盛んに行われている。
(これが、俺たちが守った世界……)
リュシアンは高台から都市を見下ろし、胸の奥で環の拍を聴いた。
その音は穏やかで、しかしどこか遠い嵐を予感させる。
(平和だ。でも……なぜだろう、少しざわついている)
心の奥にかすかな緊張があった。
それは戦いの恐怖ではなく、「次の試練が近い」という予感。
星図都市の中央に、新しい会議堂が完成した。
常設の「星々会議」として、各世界の代表が定期的に集まる場だ。
「今日から俺は“調停者”じゃなく、“議長”か……」
リュシアンは苦笑する。
肩書きが増えただけでなく、責任の重さも増していた。
(戦いの時は剣を振るえばよかった。
でも今は、言葉と決断で世界を動かさなきゃならない)
胸の奥の環が少し速く回る。
会議堂に、監視士が駆け込んできた。
「報告! 西の航路が突然封鎖されました!」
「封鎖……? 誰の許可で?」
「不明です。航路の光が灰色に濁り、通行不能になっています」
空気が一瞬で張り詰めた。
(もう始まった……統合の揺らぎが)
リュシアンは深呼吸し、舵輪を握る手を思い出す。
「行こう。まずは現場を確かめる」
ガルドが剣を背負い、セリーヌが旋律を調律する。
エファが新しい航路図を広げ、航行ルートを指示する。
「まるで以前に戻ったみたいだな」ガルドが笑う。
「いいえ、前とは違う。今回は“守る”じゃなく“繋ぎ直す”のよ」セリーヌが答える。
(そうだ。もう俺は追放者じゃない。
調停者として、この航路を再びつなぐ)
胸の奥の環が静かに鳴り、再び旅立ちの音を告げた。
オルビタが帆を広げ、光の航路を進み出す。
遠い空で、新しい星がまたひとつ生まれた。
(ここからが、本当の“星々の時代”だ)