第4部 第12話 儀式の裂け目
光の糸が都市の上空で渦を巻き、全世界の航路が一つに束ねられていく。
リュシアンは舵輪に両手をかけ、胸の奥の環の音を合わせていた。
(あと少し……もう少しで完全に繋がる)
心拍と光の脈動がぴたりと一致する。
その瞬間、地面が大きく揺れた。
星図の外縁で灰色の裂け目が広がり、黒い触手が伸びて広場を覆った。
「防御陣を展開!」ガルドが叫ぶ。
セリーヌの旋律が響き、光の盾が広場を包む。
裂け目から一人の影が現れた。
それはかつての宮廷魔術師団の副官、リュシアンを追放した決定に関わった男だった。
「貴様……まだ生きていたのか」
リュシアンの胸がざわめく。
副官の目は深い闇に沈み、黒点の力で形を歪めていた。
「統合? 笑わせるな」副官が嘲笑する。
「お前は追放された身だ。今さら世界を導くつもりか?」
胸が強く痛む。(また、あの日と同じ言葉……)
環が一瞬乱れ、光が弱まる。
「リュシアン、落ち着け!」
セリーヌが旋律を強め、音が心拍を整える。
(そうだ、これは心理戦……俺を揺さぶるための言葉だ)
「確かに俺は追放された。でも、それが今の俺を作った」
「強がるな。お前は今でも許されたいだけだ」
「許されなくてもいい。俺はもう、自分で選ぶ」
環が再び輝き、光が裂け目を押し返す。
副官が叫び、影の触手が一斉に広場を襲う。
防御陣が軋み、航路の糸が揺らぐ。
「このままでは儀式が破綻する!」エファが叫ぶ。
(このまま防戦していては間に合わない……)
リュシアンは舵輪から手を離し、前へ踏み出した。
「俺が行く。影の核を直接浄化する!」
「危険だ!」ガルドが叫ぶ。
「ここで止めなければ、すべて終わる!」
リュシアンが影の中に飛び込み、副官と対峙する。
「なぜここまで抗う!」
「世界が一つになるのが怖いからだ!
境界が消えれば、俺たちは過去の罪から逃げられなくなる!」
副官の声が震えていた。
(そうか……こいつも怖いんだ。俺と同じ)
リュシアンは剣を下ろした。
「なら、一緒に背負えばいい。
罪ごとつないで、次の時代へ渡そう」
副官が目を見開き、影が一瞬揺れる。
そしてゆっくりと形を崩し、光に溶けていった。
「……任せるぞ、調停者」
最後の言葉を残し、影は消えた。
裂け目が閉じ、航路の光が再び整う。
リュシアンは舵輪に戻り、胸の奥の環と同調させた。
(まだ間に合う……ここからが本当の儀式だ)
全世界の光が一斉に輝き、巨大な螺旋が都市の上空に描かれた。
「全員、拍を合わせろ!」
リュシアンの声に、各世界の代表が呼応した。