第4部 第11話 統合の儀へ
深淵を抜け、オルビタは星図都市の港に戻った。
都市全体が輝きに包まれ、人々が広場で歓声を上げている。
「リュシアン様だ!」
「原初の影を倒した!」
歓喜の声が夜空に響く。
胸の奥の環が、静かに満足げに鳴った。
(帰ってきた……)
膝がわずかに震える。
ガルドが肩を貸し、セリーヌが旋律で身体を落ち着かせる。
「まだ倒れないでくださいね。次がありますから」
「分かってる……分かってるさ」
リアン=ヴァルドが星図の中央に立ち、杖を掲げた。
「原初の影は鎮まり、深淵は光に変わった。
今こそ――統合の儀を行う時!」
広場にどよめきが走る。
航路のすべてが光の糸でつながり、空に巨大な円環が描かれた。
(これが最後の試練……)
リュシアンは胸に手を当て、深呼吸した。
(失敗すれば、すべてが渦に逆戻りする。
でも、やるしかない。これが俺の役目だ)
各世界の代表が次々に都市へ到着する。
氷の長老も、砂塵世界の戦士も、火の民も皆、広場に集まった。
「我らも共に誓おう」
「この光はすべての世界のものだ」
代表たちの言葉が重なり、円環がさらに輝きを増す。
(これだけの世界が集まるのは初めてだ……)
胸が熱くなる。
環の音が、鼓動と重なって響き渡る。
その時、星図の外縁に微かな歪みが走った。
黒ではなく、灰色の揺らぎ――あの日の黒点の残滓。
「またか……」
ガルドが剣に手をかける。
リアン=ヴァルドが首を振った。
「まだ動くな。儀式の場に敵を呼び込むわけにはいかん」
(来る……儀式の瞬間を狙っている)
手に汗が滲む。
だが恐怖よりも、逆に心が澄んでいく。
(ここで揺らぐわけにはいかない)
広場の中心でリュシアンが舵輪に手をかけた。
光の糸が螺旋を描き、すべての航路が一つに結ばれていく。
「これより――統合の儀を始める!」
空が白く輝き、全世界の鼓動が同時に響いた。
その瞬間、外縁の灰色が大きく裂け、巨大な影が姿を現す。
(やはり来たか……これが最後の戦いだ)
リュシアンは舵輪を強く握りしめた。