第4部 第10話 原初の影
深淵全体が震え、巨大な門が開いた。
その奥から、渦よりも巨大な影がゆっくりと姿を現す。
目も口もないのに、存在そのものが叫んでいた。
(これが……原初の影)
胸の奥の環が狂ったように回る。
呼吸が荒くなり、手が汗ばむ。
「全員、配置につけ!」
ガルドが剣を抜き、エファが航路を制御する。
セリーヌが旋律を奏で、光の網が艦隊を包む。
「これまでで一番でかいな……」ガルドが息を吐く。
(怖い。
でも、もう逃げない)
胸の奥の環が光り、鼓動と同期する。
原初の影が触手のような腕を伸ばし、艦隊を押し潰そうとする。
光の盾がひび割れ、帆が裂けた。
「持たないぞ!」エファが叫ぶ。
「耐えろ! 突破口を作る!」
視界が白くかすむ。(これ以上は……)
(いや、まだだ。
俺の中に黒点がいる。あれを使え――)
リュシアンが胸に手を当て、黒点の力を解放する。
影と同じ深い群青が光に混ざり、艦隊全体を包んだ。
「色が……変わった?」セリーヌが驚く。
「光と影を合わせるんだ!」
光と影が一つになり、巨大な光の槍となって影を貫く。
原初の影が低い咆哮を上げ、深淵全体が揺れる。
(できる……! これなら届く!)
胸の奥の環が白金色に輝き、音が澄んでいく。
仲間たちの力が集まり、巨大な光柱が原初の影の中心に突き刺さる。
影が悲鳴のような音を上げ、やがて崩れ始めた。
「今だ、全力で!」
リュシアンが掌を突き出すと、光と影が完全に融合し、深淵が一瞬で白に染まった。
全身から力が抜け、膝が折れそうになる。
だが、胸の奥の環は静かに、確かなリズムで鳴り続けていた。
(終わった……本当に)
黒かった空間が透明に変わり、星々が一つずつ灯っていく。
原初の門が閉じ、静かな光の航路が現れた。
「やった……!」ガルドが剣を下ろす。
セリーヌの旋律が穏やかになり、エファが微笑んだ。
「これでようやく、すべての航路がつながる」
遠方に、新しい星が生まれた。
それは他のどの星よりも明るく輝いている。
(次は……統合の儀式だ)
リュシアンは舵輪を握り、胸の奥で環の音を聴いた。