第4部 第1話 星々の朝(プロローグ)
夜明けとともに、星図都市の空がゆっくりと明るくなっていった。
昨日まで渦があった空間は穏やかな光で満たされ、航路が静かに脈打つ。
(終わった……けれど、ここから始まる)
リュシアンは胸の奥で環の拍を感じた。
まだ少し速い鼓動――だが、恐怖ではなく期待を告げる音だった。
広場では人々が花を片付け、昨夜の祝祭の痕跡が残っている。
子どもたちが新しい星を指差してはしゃぎ、老人たちが頷き合っていた。
(守れたんだ。この都市も、世界も)
胸の奥がじんと熱くなる。
だがその奥に、言葉にできない落ち着かなさがあった。
星図が淡く光り、中央に新しい線が浮かび上がる。
それは遠い星々へと伸びる、まだ誰も踏み入れていない道。
「次の会議だな……」
背後からリアン=ヴァルドの声がした。
老魔導士は夜通し星図を見守っていたらしく、目の下に深い隈がある。
「統合会議の準備が整った。お前が調停者として出席するのがふさわしい」
(俺が……調停者として?)
一瞬、胸が強く締め付けられた。
渦と向き合ったあの日の恐怖、仲間を失いかけた絶望が蘇る。
(でも、もう逃げない。あれを乗り越えたから、今の俺がある)
深呼吸すると、胸の奥の環が静かに回った。
港に出ると、ガルドとセリーヌ、エファが待っていた。
皆疲れているはずなのに、目はどこか晴れやかだった。
「また航路に出るんですね」セリーヌが微笑む。
「今度は戦うためじゃなく、つなぐために」とエファが言う。
「でも、敵がいないとは限らんぞ」ガルドが肩を竦める。
(そうだ、戦いは終わったわけじゃない。
だけど――もう孤独じゃない)
リュシアンは仲間の顔を順番に見た。
胸の奥の環がひときわ強く鳴り、体の芯が温かくなる。
オルビタの帆が張られ、光が航路を照らした。
星図都市の人々が見送りに集まり、再び星灯が掲げられる。
「行こう。次の航路が待っている」
リュシアンは舵輪を握り、ゆっくりと帆を進めた。
航路が広がり、遠方に複数の門が見えた。
それぞれが別の世界へ続く道。
(今度は、全てをつなぐ旅だ)
胸の奥の環が、確かなリズムで鳴り響いた。




