第3部 第15話 決戦前夜
オルビタは港で最終調整を受けていた。
帆は張り直され、甲板の紋章は渦星の光を受けて淡く輝いている。
広場のざわめきは収まり、夜の都市は異様な静けさに包まれていた。
(明日、来る)
胸の奥で環が静かに回る。
鼓動がやけに大きく響き、息を吸うたびに胸が熱くなる。
(負けたら、ここも、星も、全部失う)
喉が乾く。
でも、足は震えなかった。
(怖い。でも、怖いまま立ち向かう)
胸の奥で環がさらに一度、強く鳴った。
甲板にセリーヌ、ガルド、エファ、歌の民、機械仕掛けの門渡りが集まった。
灯火を囲み、皆が静かに座る。
ガルドが沈黙を破った。
「ここまで来たな。あの日、辺境で拾ったお前が、今じゃ星を動かしてる」
リュシアンは苦笑した。「俺一人じゃ無理だった」
(誰もいなかったら、きっと途中で折れていた)
セリーヌがそっと手を握る。「あなたが選んだから、私たちはここにいるんです」
エファが頷いた。「明日は、星渡り全員の誇りを懸ける戦いになる」
歌の民の巫女が低く歌い出す。
その旋律は明日の戦いのための祈りで、都市全体に響き渡った。
機械仕掛けの門渡りが腕を組む。「データは十分揃った。次は行動だ」
皆の視線がリュシアンに集まる。
(もう迷う理由はない。
ここで勝てば、星の未来が確定する)
胸の奥で環がひときわ強く鳴り、全員の鼓動と重なった。
港の灯が落とされ、艦隊が一列に並ぶ。
帆が風を孕み、音もなく膨らむ。
リアン=ヴァルドが岸壁から叫ぶ。
「門渡り艦隊、出撃準備完了!」
(恐怖はまだある。でも、それ以上に――)
胸の奥が熱い。
今すぐにでも舵輪を握り、渦の影に飛び込んでいきたくなる。
(戦うんじゃない。変えるんだ)
東の空が淡く光り始める。
星図都市の上空に新しい航路が描かれ、渦の星がひときわ強く輝いた。
「行こう」
リュシアンは舵輪に手をかけた。
オルビタがゆっくりと港を離れ、艦隊が続く。
(ここからが本当の戦いだ)




