第3部 第9話 星図に刻まれる誓い
渦の空洞を抜けた瞬間、音が戻った。
風が帆をはためかせ、甲板を駆ける仲間の足音が鮮やかに響く。
リュシアンは胸に手を当てた。
鼓動が静かに拍を刻み、胸の奥の環が穏やかに回っている。
(帰ってきた……)
セリーヌが微笑む。「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
港に着くと、人々の歓声が広場を満たした。
「渦が……星になった!」
「星図が更新されたぞ!」
壁一面の星図に、新しい光点が瞬いた。
それはまるで都市全体が祝福しているかのようだった。
(守れた……)
膝から力が抜けそうになるが、リュシアンは深呼吸し、立ち続けた。
(これは俺一人の勝利じゃない。皆で勝ち取った未来だ)
再び評議会の議場へ。
リアン=ヴァルドが中央に立ち、リュシアンに視線を向ける。
「結果を」
「渦は変わった。奪うものではなく、星として意味を灯す存在になった」
議場がどよめく。
全員の目がリュシアンに集まる。
称賛と驚きと、まだ消えぬ不安が混ざった眼差し。
(怖がるなら怖がればいい。俺は――選び続ける)
「俺は創って終わらせない。繋いで、育てる。
渦はもう災厄じゃない。未来の土台だ」
星図がひときわ強く光り、光点が都市全体へ広がった。
胸の奥が熱くなる。
セリーヌの瞳が潤んでいた。ガルドが無言で頷き、拳を掲げる。
(やっと、ここまで来た)
氷の長老が杖を下ろす。「封印ではなく、変容……前例のない事例だが、認めざるを得まい」
砂漠の王が苦笑する。「やられたな。お前に先を取られた」
歌の民の巫女が穏やかに微笑んだ。「これで、未来の歌がひとつ増えた」
(これで終わりじゃない。
星は生まれたばかり。育てるのは、これからだ)
胸の奥で環が再び回り始めた。
評議会は全会一致で、新しい星を全世界の共通財産とすることを決定した。
争いも占有も許さない、星々の誓約がここに結ばれた。
会議が終わったあと、リュシアンは港に立ち、夜空を見上げた。
新しい星がひときわ明るく瞬いている。
(次は、この星と一緒に歩む時代だ)
胸の奥で環が穏やかに回り続けていた。




