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追放された宮廷魔術師、辺境で無双した末に星々を導く者となる  作者: マルコ


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第3部 第8話 渦の心臓

 空洞の中心に巨大な鼓動があった。

 黒い塊が脈打つたび、周囲の空間が歪み、星舟の帆がひるがえる。


 リュシアンは甲板から一歩踏み出し、虚空に浮かぶ足場へ降りた。

 音はないが、胸の奥で環が強く回り、拍が世界を支えているように感じた。


(ここで間違えたら、全部呑まれる……)


 胃が縮み、喉が乾く。

 それでも足は前へ進む。


(怖い。でも、もう逃げない)


《……名を……よこせ……》


 心臓の塊から、無数の声が重なって響く。

 男の声、女の声、子供の泣き声――すべてが名を求めていた。


「名を渡さない。でも奪わせもしない」

 リュシアンは胸に手を置く。


「お前が求めているのは、満たされることだろう?」


 黒い霧がリュシアンの周囲に集まり、もう一人のリュシアンの姿を形作った。

 その瞳は深い闇で、怒りと恐怖と後悔が入り混じっている。


(また俺か……)


「そうだ、俺だ」影が囁く。「怒りも、憎しみも、全部お前が置き去りにした」


「だから取りに来た」


 リュシアンは杖を捨て、両腕を広げる。


「お前も俺だ。もう逃げない。怒りも憎しみも、一緒に抱えて進む」


 影が一瞬震え、次の瞬間、霧のように溶けて胸に吸い込まれた。


 胸が灼けるように熱い。

 怒りも恐怖も、全てが一つの炎に変わる。


(これが……俺の力)


 胸の奥で環が光り、黒と白が完全に重なった。


 心臓の塊が光を帯び、黒から青へと変わっていく。

 奪う波が消え、空間が穏やかに震えた。


《……あたたかい……満たされた……》


 声が次第に静かになり、最後には一つの旋律に変わった。


 膝が震え、思わず座り込む。

 セリーヌが駆け寄り、肩を支えた。


「リュシアン様……!」


「ああ、大丈夫だ。終わった」


 頬を涙が伝った。怖さも、安堵も、全て混ざった涙だった。


 青く輝く塊が砕け、無数の光粒となって空に散った。

 それぞれが小さな星になり、空洞を照らす。


「これで……渦は星になる」


 オルビタが光に包まれ、艦隊全体が歓声を上げた。

 声はないが、拍と呼吸で全員の心が繋がる。


(渦はもう敵じゃない。

 次は、この星をどう育てるかだ)


 胸の奥の環が穏やかに回り続けていた。


 空洞の奥に光の門が現れた。

 それは星図都市への帰還を示している。


「帰ろう。結果を持ち帰るんだ」


 リュシアンは立ち上がり、光へ向かって歩き出した。

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