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追放された宮廷魔術師、辺境で無双した末に星々を導く者となる  作者: マルコ


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第3部 第7話 沈黙の海

 渦の中に入った瞬間、音が完全に消えた。

 帆のはためきも、舵の軋みも、仲間の息づかいすら聞こえない。


 代わりに、胸の奥の拍だけがやけに大きく響く。

 リュシアンは掌を握り、心臓の鼓動を確かめた。


(音が消えたんじゃない。意味が、ここでは生まれないんだ)


 背後にいるはずのセリーヌやガルドの姿が揺らぎ、遠ざかっていくように見える。

 指先が冷え、視界が狭まる。


(ここで怖がったら……ひとりになる)


 胸の奥の環を回し、拍を整える。

 途端にセリーヌの姿がはっきりし、彼女も同じリズムで呼吸しているのが分かった。


 霧のような黒が船首を覆い、耳の奥に直接声が響いた。


《……名をよこせ……名を……》


 次の瞬間、オルビタの舳先に刻まれた楽譜がひとつ、すっと消えた。


(これが渦……奪われる前に、満たさなきゃ)


 リュシアンは甲板に立ち、両手を掲げる。

 声は出ないが、拍を刻む。セリーヌが旋律を、ガルドが足拍を重ねる。

 帆布が震え、オルビタが再び進み始めた。


(怖いのに……体が熱い。

 今までにないほど、生きているって感じる)


 胸の奥で環がさらに速く回った。


 黒い腕が無数に伸び、帆を掴もうとする。

 機械仕掛けの門渡りが甲板から光弾を放ち、影の腕を焼き払った。


 歌の民の巫女が旋律を変え、甲板に保護の紋を描く。

 だが、その旋律が途中で奪われ、言葉にならない音に崩れた。


(このままじゃ……音が全部奪われる)


 胸が締め付けられる。

 だが、リュシアンは目を閉じ、呼吸をさらに深くする。


(奪われる前に、渡すんだ。

 名付ける前の、温度を)


 掌から青白い光が溢れ、甲板を包んだ。

 消えかけていた楽譜が復活し、奪われた旋律が音になる前の波として戻った。


 影が一斉に後退し、門の奥へ引いていく。


(やった……まだ戦える)


 セリーヌが微笑む。言葉はないが、拍が重なり合い、気持ちが伝わった。


 霧が晴れ、遠方に巨大な空洞が見えた。

 そこが渦の心臓――最も深い場所。


 オルビタが速度を上げ、艦隊が後に続く。


 空洞の中心で、巨大な黒い塊が脈打っていた。

 それは人の形にも獣の形にも見え、無数の声が重なって囁いている。


《……来たか……名を持つ者……》


 リュシアンは杖を握り、胸の奥の環を回した。


(ここで決める。変えるために)

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