第3部 第5話 星図会議
星図都市の港にオルビタが着床すると、広場に人々が集まっていた。
封印派との試練を突破したという報せは既に届いていたのだろう。
リアン=ヴァルドが一歩進み出て、リュシアンを見据える。
「戻ったか。顔つきが変わったな」
「影を抱いた。もう、迷わない」
短い会話だけで、互いの立場が分かった。
星図都市の中央、巨大な円形議場。
壁一面が星図で覆われ、今この瞬間も無数の航路が書き換えられている。
氷の世界の長老、砂漠の王、歌の民の巫女、機械仕掛けの門渡り――
各世界の代表が次々と席についた。
「議題は一つ」リアンが告げる。「渦への対応。封印か、滅却か、あるいは――」
会場の視線がリュシアンへ向けられた。
心臓が速く打つ。
胸の奥で環が回り、拍がゆっくりと落ち着いていく。
(ここで間違えれば、俺だけじゃない。
街も、大樹も、すべて巻き込む)
拳を握り、深呼吸する。
「渦は封印すべきだ!」氷の長老が声を上げる。
「滅ぼすべきだ!」砂漠の王が机を叩く。
「渦は未来の種だ、守るべきだ!」歌の民の巫女が反論する。
議場に怒声が飛び交い、魔力が弾ける音がした。
(どちらも正しい。でも、どちらかだけでは足りない)
リュシアンは目を閉じた。
胸の奥で陰影の環が回る。怒りも迷いも、呼吸とともに沈んでいく。
ゆっくりと立ち上がる。
「滅ぼしもしない、封じもしない。
渦を変える。奪う力を奪わず、意味を満たす形に変える!」
議場が一斉に静まり返る。
「可能なのか?」
「渦を“生かす”だと?」
「前例がないなら、俺が作る!」
声が星図に響き、壁の星々が一瞬明滅した。
(ここで退けば、何も変わらない)
胸の奥の環が強く鳴り、黒と白の輪が広がって議場を照らす。
「俺は創って終わらせない。繋いで放り出さない。
この場で誓う。渦を救い、世界を救う!」
機械仕掛けの門渡りが口を開く。
「ならば証明せよ。渦の心臓に潜り、結果を持ち帰れ。
失敗すれば、全世界の総意で封印を行う」
「上等だ」
リュシアンは頷いた。
(もし失敗すれば、あの大樹も街も消える……)
胃が締め付けられるように痛む。
セリーヌがそっと肩に手を置いた。
「一緒に行きます。あなたが選ぶなら、私も選ぶ」
その笑顔に、不安がゆっくりと溶けていった。
評議会は決を取り、各世界から支援者を出すことを決定した。
星舟が次々と港に集まり、艦隊が編成されていく。
オルビタの帆に新しい楽譜が刻まれ、甲板が光を帯びた。
夜、リュシアンは一人で甲板に座り、星空を見上げた。
遠くに見える渦が、黒い花のように揺れている。
(次で決める。負ければ終わる。勝てば未来が始まる)
拳を握り、胸の拍を確かめた。
夜明け、艦隊が一斉に帆を張る。
星図都市の空が光で満ち、航路が描かれる。
「行こう。渦の心臓へ!」
星々の光がひときわ強く輝いた。




