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追放された宮廷魔術師、辺境で無双した末に星々を導く者となる  作者: マルコ


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第3部 第4話 星嶺の集落

 星舟〈オルビタ〉が星嶺に近づくと、空気が重くなった。

 光と影が交錯し、星の光が脈打つたびに空間が軋む。


「……近い。渦の息吹だ」

 セリーヌが額に汗を浮かべる。


 峰の中腹に光が灯り、集落の輪郭が現れた。

 封印派の集落――門の紋が交差する標が門前に掲げられている。


(また議論になる……いや、今回はもっと厳しい)


 リュシアンは胸の奥で環を回す。

 怒りも不安も、一拍ごとに沈めていく。


 集落の中心広場には石造りの円卓があり、十数人の封印派が座していた。

 その中心に立つ長老格の女が杖を突く。


「門渡りリュシアン。噂は聞いた。渦を“変える”などという無謀な理想を広めているそうだな」


「無謀じゃない。必要なことだ」


「必要かどうかは我々が決める」

 女の声は冷たく、石を打つ音のように響いた。


(俺は本当に正しいのか? もし失敗したら……)


 胸の奥で環が速く回る。

 セリーヌが隣でそっと手を握った。


(迷うな。迷えば、影に呑まれる)


「渦は封じれば消える」長老が言う。

「消えるんじゃない、ただ別の場所に押しやるだけだ。いつかもっと大きく戻ってくる」


 リュシアンの声が少し強くなる。


「だったら――変えるんだ。奪う力を奪わず、満たす形に!」


 広場がざわめく。何人かが杖を抜きかけるが、長老が手を上げて制した。


「ならば証明してみせろ。

 渦の“核”に触れ、奪われずに戻ってこい。

 それができれば、お前の理想を認めよう」


 胃が縮むような感覚。

 だが、ここで引けば何も変わらない。


「いいだろう。やる」


 リュシアンは真っ直ぐに長老を見返した。


 夜、集落の外れにある巨大な裂け目に案内された。

 そこからは渦の息吹が吹き上げ、石畳が時折「意味」を失って崩れる。


「ここが試練の場だ」

 長老が杖を突き、裂け目がさらに広がる。


(俺一人で行くのか……)


 背後を振り向くと、セリーヌとガルドが頷いていた。


「一人じゃない。呼べば声を重ねる」

「戻ってこいよ、リュシアン」


 胸の奥で環が静かに回った。


 裂け目の中に降りると、黒い霧が足首にまとわりつく。

 耳の奥で囁き声が響いた。


《……また来たのか……名を持つ者……》


 リュシアンは深呼吸し、掌に光を集める。


「奪わないでくれ。今度は――一緒に行こう」


 黒い霧が形を成し、リュシアン自身の影が現れる。

 怒り、後悔、恐怖――あの日封じ込めた感情が一斉に溢れた。


(これが、俺の影……)


 胸の奥で環が加速し、光と闇がせめぎ合う。


(逃げない。抱きしめる)


 リュシアンは影に歩み寄り、両腕を広げた。


 影が霧散し、胸に吸い込まれる。

 視界が一瞬白く光り、裂け目の霧が晴れた。


「……終わった」


 リュシアンの瞳が淡い光を帯び、環の回転が穏やかになる。


 広場に戻ると、封印派の長老が目を細めた。


「生きて帰ったか。しかも……目が変わっているな」


「渦と戦ったんじゃない。対話した」


 長老はしばらく沈黙したのち、杖を下ろした。


「お前の道を否定はせぬ。だが、まだ信用はしない。

 次は星図都市の会議で決めるがいい」


(完全に認められたわけじゃない。でも……一歩進めた)


 胸の奥で環が静かに鳴る。

 セリーヌが微笑んだ。「次は星々の会議ですね」


「ああ。そこで、全部ぶつける」


 オルビタが再び帆を張る。

 星嶺の空に光の道が描かれ、星図都市への航路が開かれた。


(次は、言葉の戦いだ)


 リュシアンは舵輪を握り、星空を見上げた。

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