第2部 第33話 湖の道
湖の中央から伸びた光の道は、ゆっくりと前方に続いていた。
足元の水面が鏡のように揺れ、空の星が反射して無数の光の海になる。
「まるで星の上を歩いているみたいですね」
セリーヌが小さく笑う。
だが、リュシアンの胸の奥は緊張でざわめいていた。
(この道の先には、まだ見ぬ何かがいる)
道の途中、光の柱のような人影が現れた。
その姿はどこか星渡りに似ていたが、より小さく、幼い印象を与える。
「……君は?」
その存在が首をかしげ、鈴のような声を響かせた。
《私は“導きの子”。湖の心臓が生んだ案内人》
その言葉に、セリーヌが目を丸くする。
「湖そのものが、案内人を……?」
(湖が意思を持っている……
この旅は、まだまだ深く続くということか)
胸が高鳴る。
恐怖よりも期待が勝っていた。
《先へ進む前に、選べ。誰と共に進むか》
足元の道が二つに分かれる。
一方は穏やかな光に満ちた道、もう一方は闇に包まれた道。
「どちらかを選べということか……」
(どんな道でも、一人じゃない。
仲間がいるから、進める)
深呼吸して闇の道を指さした。
「闇を選ぶ。
俺は、怖い道を避けない」
セリーヌが笑い、他の仲間たちも頷いた。
道を進むと、湖面が黒く濁り、過去の影が立ち上がる。
倒したはずの敵、裏切った貴族、追放を告げた元婚約者の幻影が現れる。
「……またか」
胸が痛むが、リュシアンは目を逸らさずに歩き続けた。
(全部過去の一部だ。
乗り越えたから、今がある)
そう呟いた瞬間、影たちが霧のように消えていった。
やがて道が一つに戻り、湖の中央に巨大な門が現れた。
今までよりも重々しく、紋様が複雑に絡み合っている。
《これは“核心の門”。この先で世界の根を見せる》
導きの子が告げる。
(世界の根……ここでの選択が、未来を決める)
胸が強く鼓動する。
だが、迷いはもうなかった。
「開けよう。俺たちが選んだ未来の先へ」
門がゆっくりと光り、開き始める。
その先には、深い闇と無数の星々が広がっていた。
「ここからが本番だな」
杖を握り、リュシアンは一歩踏み出した。




