第1部 第4話 黒幕追跡編・陰謀の影
王都決戦から三日後。
街はまだ焦げ臭く、瓦礫が至る所に残っている。
広場の中央に積まれた魔獣の死骸が、戦いの凄惨さを物語っていた。
俺はそれを見下ろしながら、深く息を吐いた。
(これで終わり……のはずだった)
だが胸の奥はざわついていた。
あの日、俺を陥れた「証拠」は誰が仕組んだのか。
なぜ宮廷魔術師団は、俺の弁明を聞こうともしなかったのか。
(必ず黒幕がいる。あれほど巧妙な罠、偶然で済むはずがない)
杖を握る手に力が入る。
王城の謁見の間。
王は俺を前にして深くうなずいた。
「リュシアン、王都を救った功績に感謝する。だが……まだ敵が潜んでいる」
「わかっています。あの日の冤罪──誰が仕組んだかを突き止める」
王は一枚の羊皮紙を差し出した。
そこには、数名の貴族の名が記されていた。
「この者たちが怪しい。お前を排除して得をするのは、彼らだ」
俺は名前を目で追いながら、記憶を掘り起こす。
会議の席で冷たい視線を向けていた者。
俺の研究成果を横取りしようとした者。
(……やはり)
胸に暗い炎が灯った。
王城を出たところで、セリーヌが待っていた。
彼女の顔にはまだ疲労の影が残っている。
「リュシアン……もう休んだほうがいいわ」
「休んでいる暇はない。俺を陥れた奴らを見つけ出す」
セリーヌはうつむき、唇を噛んだ。
「私も……手伝わせて。あの日、あなたを信じなかった罪を、少しでも償いたいの」
俺はしばらく黙って彼女を見つめた。
かつての裏切りの痛みが胸に蘇る。
だがその目には、嘘偽りのない決意が宿っていた。
「……いいだろう。ただし、二度と裏切るな」
セリーヌは深く頭を下げた。
王都の裏路地、酒場、情報屋。
俺とセリーヌは、夜な夜な情報を集めた。
村での生活で身につけた観察眼が役に立った。
噂話、商人の会話、下級兵士の愚痴。
そこから少しずつ、黒幕の輪郭が浮かび上がってくる。
「……やはり、この名が出てくるか」
羊皮紙に記された貴族の一人──宰相補佐官バルク。
俺の研究成果を何度も横取りしようとした男だ。
(あいつか……)
胸が熱くなる。
復讐心と共に、奇妙な昂揚感が広がる。
翌日、王都の裏通りで不審な影に気づいた。
尾行だ。
俺は気づかないふりをして歩き、人気のない路地に入る。
影が追ってくる。
「──出てこい」
杖を構えた瞬間、二人の刺客が飛び出してきた。
短剣を構え、無言で襲いかかる。
「《雷槍》!」
雷光が走り、刺客の一人が倒れる。
もう一人が逃げようとした瞬間、俺は腕をつかんだ。
「誰の命令だ!」
刺客は歯を食いしばり、毒を噛んで息絶えた。
(やはり、俺を消そうとしている……)
背筋に冷たいものが走る。
だが恐怖よりも、決意が勝っていた。
夜、王城の塔から王都を見下ろした。
焦土と化した街が、月光に照らされている。
セリーヌが隣に立ち、静かに言った。
「あなたは変わったわね。前より……強くなった」
「村で、仲間に出会ったからだ。守るべきものができた」
俺は杖を握りしめた。
「もう二度と、あの日のような屈辱は味わわない。
俺を陥れた者たちは、必ずこの手で裁く」
夜風が吹き抜け、髪を揺らした。
(次は……狩る番だ)
月明かりに照らされた俺の影は、かつてよりもはるかに濃かった。