第2部 第24話 世界の心臓
扉を抜けた先の空間は、音がなかった。
巨大な水晶が浮かび、ゆっくりと脈動している。
それは鼓動のようでもあり、世界全体が呼吸しているようにも感じられた。
《門渡りの者よ。ここは世界の心臓。お前の選択を聞こう》
声が頭の奥に響く。
セリーヌが息を呑む。
「……答えろってことですね」
胸が重くなる。
これは一個人の選択ではない。
この世界の未来そのものを決める選択だ。
(ここで間違えたら、すべてが壊れるかもしれない)
汗が背中を伝う。
だが、今さら逃げるわけにはいかない。
《創るか、壊すか》
簡潔な問いが響く。
水晶の表面に、二つの未来が映し出される。
一つは美しい都市が広がる未来。
もう一つは、すべてが崩れ落ちて荒野となる未来。
「二択……?」
セリーヌが呟く。
だが胸の奥で、リュシアンは別の可能性を感じていた。
(どちらか一つじゃない。
創るだけじゃ停滞する。壊すだけじゃ絶望になる)
胸の奥が熱くなる。
「俺は……どちらも選ばない。
創りながら壊し、壊しながら創る。
変わり続ける世界を選ぶ!」
声が広間に響いた。
水晶が強く輝き、鼓動が早くなる。
足元の大地が震え、光が四方に広がった。
《選択を確認。変化の連続を選ぶ者よ》
次の瞬間、胸の奥で「調和の環」がさらに進化し、
**「創造の環」**が刻まれた。
全身が熱に包まれ、視界が白くなる。
骨の奥が軋むような痛みと、胸の奥から湧き上がる喜びが同時に押し寄せる。
(これが……創る痛みか)
耐え切った瞬間、痛みが消え、代わりに温かい光が体を満たした。
《よかろう。お前をこの世界の共同創造者と認める》
水晶が砕け、無数の光の粒が空へ舞い上がった。
空間全体が柔らかい光に満たされる。
「これで……終わり?」
「いいえ」セリーヌが微笑む。
「これが始まりです。あなたが選んだ世界を、これから作るんです」
扉の外に戻ると、浮島全体が変化していた。
新しい植物が芽吹き、川が増え、鳥の鳴き声が聞こえる。
「選択が、世界を変えたんだ……」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
だが同時に、遠くで低い音が響いた。
「……これは?」
空の向こうに、黒い渦が現れていた。
(まだ試練は終わらない。
今度は“作った世界を守る”試練か)




