第2部 第6話 真名の門
星の橋の果てに、ひときわ大きな光の球が浮かんでいた。
近づくほどに心臓が速くなる。
球は鏡のように輝き、俺自身の姿を映している。
《境界の子、最後の門だ》
低い声が響く。
背後の橋が音もなく消え、退路は断たれた。
「……やるしかない、か」
杖を握り、鏡の前に立つ。
鏡の中の自分が口を開いた。
「お前は誰だ?」
胸の奥が凍る。
この問いをずっと避けてきた。
俺は宮廷魔術師で、追放者で、辺境の守護者で、英雄で……
だが、それは全部“肩書き”に過ぎない。
(俺は、何者なんだ)
喉が詰まり、答えが出ない。
鏡の中の自分が嗤う。
「復讐者だろう? 赦せない男だろう?」
過去の怒りが胸を焼く。
だが同時に、それが今の自分を形作ってきたことも知っている。
(認めろ……これも俺だ)
「そうだ。俺は復讐者だった。
だが今は、それを越えて進む者だ」
言葉にした瞬間、鏡の中の自分が変わった。
顔が少し柔らかくなり、杖を下ろした姿になった。
《ならば、名を与えよ》
胸の奥に、熱が走る。
言葉が浮かぶ。
「俺の名は……“門を渡す者”」
鏡が砕け、光が全身を包む。
頭の奥で星々の声が重なった。
《見た。お前は自分を選んだ》
杖の先に新しい紋様が刻まれる。
三位の環が四位へと変わり、星の相が加わった。
足元の橋が再び現れ、星の空が遠ざかる。
次の瞬間、広場に立っていた。
セリーヌが隣にいて、涙を浮かべて笑っている。
「戻ったのね……!」
「ああ。もう迷わない」
胸の奥に確かな重みがある。
それは恐怖でも怒りでもない。
自分自身を認めた重さ。
星読みの使者が現れ、深々と頭を下げた。
「第四の環が完成した。
だが星々は告げている――次は“外の外”だ」
空を見上げると、星々がいつもより近く、熱を帯びていた。
(まだ終わりじゃない。ここからが、本当の旅だ)
杖を握り直し、深く息を吸った。




