第2部 第3話 別れの灯火
王都の空は雲ひとつなく、星が落ちてきそうなほど澄んでいた。
広場では出立を見送るための灯火が並べられ、人々が集まっていた。
俺は塔の上からその光景を見下ろしていた。
街のざわめきが波のように届き、胸の奥に響く。
(ここまで来たんだな……)
追放され、辺境で力を取り戻し、王都を救い、太陽を迎え入れた。
もう、王都は俺を拒まない。
だが今度は、自分からこの街を離れる番だ。
「怖いですか?」
セリーヌが塔の階段を上がってきた。
その瞳には星の光が揺れている。
「怖いさ。
けど、もう“怖いから動かない”ことはしない」
セリーヌは静かに笑った。
「私も一緒に行きますよ。
星々に、あなた一人を差し出すつもりはありません」
その言葉に胸が熱くなる。
(そうだ、俺はもうひとりじゃない)
広場に降りると、仲間たちが待っていた。
鍛冶師のガルドは腕を組み、無骨な笑みを浮かべている。
「お前がいない間、王都の武器は任せとけ」
村人のエリナは花の冠を差し出した。
「帰ってきたら、また村の焚き火を一緒に囲んでね」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
それは後ろ髪を引く感情ではなく、背中を押す力になっていた。
広場の真ん中に立ち、王都を見渡す。
かつてこの場所で、嘲笑と罵声に晒された日が脳裏に浮かぶ。
(あの日の俺は、何も言えなかった。
でも今は、言える)
深く息を吸い、声を張る。
「俺は、星の道を行く。
王都を門にした俺の役目は、ここだけじゃ終わらない。
必ず戻る。
その時は、もっと広い世界の話を持ってくる!」
人々の歓声が広場を満たし、灯火が一斉に揺れた。
満月が天頂にかかると、星読みの使者が現れた。
光の道が広場から外へ伸びる。
「時だ」
使者の声に頷き、杖を握り直す。
「行こう、セリーヌ」
二人で光の道へ足を踏み出す。
灯火が背後で揺れ、人々の声が遠ざかる。
恐怖と期待が同じ重さで胸に乗っている。
だが、その重みが足を軽くする。
(もう戻らない。
戻るときは、新しい俺になっている)
道を進むにつれ、星の光が強くなる。
耳の奥で、かすかな声が重なっていく。
《ようこそ、境界の外へ》
視界が白く染まり、世界が反転する。
(これが……星の道の始まりか)
次の瞬間、足元から重力が消え、体が浮かび上がった。




