第2部 第2話 星読みの使者
夜明け前の広場に、奇妙な静けさがあった。
焚かれていた松明は消え、星の光だけが街を照らしている。
広場の中央には、銀色の外套を纏った人物が立っていた。
フードの下から見えたのは、深い藍色の瞳。
その目は星空のように光り、こちらを射抜く。
「境界の子、リュシアン」
声は淡々としているのに、胸の奥に響いた。
「あなたが……星読みの使者か」
頷きがひとつ。
その仕草すら、夜空のリズムに合っているように見えた。
「三位の環は完成した。
だが、星々はまだあなたを見ている。
“第四の環”を作る準備はあるか?」
第四の環……
地・海・空に続く、星の環。
心臓が強く脈打つ。
「準備はある。だが、俺に何を求める?」
星読みの瞳が細められた。
「理解される覚悟だ」
その言葉に息が止まった。
今まで、俺は世界を理解することばかり考えてきた。
地脈を読み、海を潜り、空を視た。
だが、俺自身が理解されることを怖れていた。
(俺がどう見えるか、俺が何を選ぶか、他者にさらけ出すのか……)
胸の奥で、恐怖と期待がせめぎ合う。
脳裏に、追放の日の玉座が浮かぶ。
あの日、俺は何も言えず、何も選べず、ただ晒された。
その痛みが今も残っている。
(今度は……自分の意思で晒すのか?)
手が震えた。
だが、その震えを押さえ込もうとは思わなかった。
「わかった。俺は選ぶ。
理解される覚悟を、受け入れる」
星読みの足元に、細い光の道が現れた。
王都から外へ、地平線まで続いている。
「これが星の道。
歩めば、あなたの心はひとつずつ読まれる。
隠したものも、嘘も、痛みも」
「……全部か」
「全部だ」
覚悟が試される。
けれど、もう逃げない。
「案内してくれ。
俺はこの道を行く」
星読みが微かに微笑んだ。
「ならば、次の満月の夜に出立する。
それまでに、王都に別れを告げよ」
星読みが去ると、広場に夜明けの光が差した。
空が少しずつ明るくなり、街の屋根が金色に染まる。
(理解される覚悟……)
怖い。
だが、胸の奥に燃えるものがあった。
今までとは違う種類の炎。
これは復讐の火ではない。
誇りの火だ。
「行こう、セリーヌ。
星々に、俺たちの“今”を見せるために」
セリーヌが頷いた。
その瞳にも、星の光が映っていた。




