表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された宮廷魔術師、辺境で無双した末に星々を導く者となる  作者: マルコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/133

第1部 第13話 蝕の門

 夜の端で、月がまた欠けていた。

 昨日はかすかな欠けだったのに、今夜は目で見て分かるほどはっきりしている。


(早い……)


 蝕の進行は予定よりも速い。

 塔の円環に記された《風視》と《灰視》の記録も、異常な波形を示していた。


「街がざわついています」

セリーヌの報告は短い。

「明かりを消す家が増えている。怖がっているんじゃなく、“見ない”選択をしているようです」


 胸が締め付けられる。


(街の方が先に学んだ……)


 第三の目が見せる世界では、王都全体が大きなまぶたを閉じ始めていた。


 蝕の夜、塔の頂にひとり立つ。

 街の灯は半分以上が落ちている。

 音も薄い。子供の泣き声さえ止んでいる。


(これが……見ない勇気か)


 だが同時に、胸の奥でざわつきが広がる。

 この静けさは、世界を閉ざす安堵と同時に、無防備さをも孕んでいる。


「リュシアン様、始めますか?」

セリーヌの声も、やけに小さい。


「ああ。……でもこれは、戦いじゃない。

 試しに来るものを、まず“迎える”」


 杖を立て、詠唱を開始する。


「《灰視・影相》、開眼」


 第三の目が開く──だが光は出さない。

 影を“視る”目を開く。


 塔の周囲に、黒い靄が集まる。

 形を持たず、ただ濃く、冷たい。


《見ないなら、消えよう》


 声がする。

 それは懇願に似て、同時に呪いにも似ていた。


(違う……お前は消したいんじゃない。見てほしいんだ)


 胸に手を当て、影へ一歩踏み出す。


「ここにいる。見る。でも、すべては見ない」


 言葉が宙に残り、靄が震える。


 影は形を変え、過去の自分の姿を作った。

 追放されたあの日のリュシアン。

 宮廷での嘲笑、セリーヌの冷たい瞳、崩れ落ちる名誉。


「……」


 喉が焼ける。

 全身が汗ばむ。


(俺は、あの日の俺を許せていない)


 足元の塔の石が冷たい。

 膝が沈みそうになる。


「でも、もう背を向けない。

 あの日の俺を“見ない”わけにはいかない。

 けれど……あの日に縛られもしない!」


 杖を叩きつける。

 衝撃で影が波紋のように広がり、薄れる。


 靄の中から声がした。


《ならば、お前に“選ばない権利”を与える》


 胸が熱くなる。

 選ばない権利──それは、戦場で命を選び取る立場に立った者が最も欲しかったものだ。


「……ありがとう」


 影が完全に形を失い、塔の周りに薄い輪を描いた。

 それが夜空に浮かび、蝕の輪郭と重なる。


《次は、太陽だ》


 声が消え、蝕が終わる。

 月が再び丸くなり、光が街を満たした。


 窓がひとつ、またひとつ灯る。

 遠くで、笛の音が響いた。

 街は静かに目を開き、再び息をし始める。


「やったのね」


 セリーヌが塔へ駆け上がってくる。

 顔は泣き笑いのようだった。


「街は……影と折り合った」


「ああ。これで、次は太陽だ」


 遠くの地平線に、赤い光がわずかに揺らめいた。

 それは夜明けではなく、太陽そのものが試練となる前触れに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ