第7部 第4話 最後の血
オルビタが柱に近づくと、光がひときわ強くなり、視界が反転した。
次に映ったのは、巨大な儀式の場。円の中央には、一人の子どもが座っている。
「……子ども?」エファが息を呑む。
大人たちが歌い、祈り、門が開くたび、子どもの身体が淡く光を失っていく。
(これは……命の代償が一人に集められてる)
胸の奥の環が苦しく鳴り、吐き気がこみ上げる。
(こんな方法で航路を保っていたのか……)
《我らは選んだ。次代を犠牲にしてでも、道を残した》
子どもが最後に笑い、光の中に溶けていった。
(繋ぐために……次の命を差し出した?)
拳が震える。(こんな犠牲までして作った道を、俺は歩いてるのか)
次の柱では、航路を守るために村全体が滅びる映像が映った。
門を閉ざせば助かったかもしれないのに、彼らは開いたまま死を選んだ。
《航路は我らの墓標。
それでも未来に繋がれば本望》
(こんな犠牲の上で……俺は“自由な航路”なんて言えるのか?)
胸の奥の環が不規則に鳴り、視界が滲む。
最後に見えたのは、一人の男が剣を胸に突き立てる姿だった。
血が柱を染め、光が天に昇る。
「……これで七本目以外は立ったまま、というわけね」イシュナが呟く。
(彼は……俺に似てる。姿も、剣の持ち方も)
胸が痛いほど鳴る。(まさか……)
《血は継がれた。お前の中に》
声が響き、全身に鳥肌が立つ。
(俺は……最初の門渡りの血を継いでる。
つまり俺自身が、航路誕生の犠牲の証そのもの)
目を閉じ、深く息を吐いた。(逃げられない。選ぶのは、俺しかいない)
視界が戻ると、セリーヌがそっと手を握った。
「顔色、真っ青よ。でも……選ぶのはあなたしかできない」
ガルドが低く言った。「選べ。何を捨て、何を残すかだ」
遠くに最後の一本――七本目の柱が見えている。
その光は白く、そしてどこか悲しげだった。
「……行こう。これで終わりだ」
胸の奥の環が低く、深く鳴り、答えの時を告げていた。