第7部 第3話 血の誓い
オルビタが柱の前に停泊すると、再び光が走り、世界が変わった。
今度は広場のような場所。中心に円があり、七人の人影が立っている。
「何かを……捧げてる?」エファが呟く。
人影のひとりが腕を切り、血を円に垂らした。
次々と同じ動作を繰り返す。血が土を赤く染め、円が光り始める。
(これは……代償。航路は命を削って作られた)
胸の奥の環が低く鳴り、喉の奥が熱くなる。
(ただの技術でも奇跡でもない、“犠牲”だ)
《ここからは戻れぬ。
我らは選んだ。星々を繋ぐために、命を差し出す道を》
光が走り、円が門に変わった。
(俺も……あの時、影に差し出した。自分の恐怖を)
膝がわずかに震える。(でも、あの選択を後悔はしてない)
次の柱では、別の情景が映し出された。
門が開いた先で、誰かが倒れ、仲間が泣きながら埋葬している。
「……一人、帰れなかったのね」セリーヌが呟く。
(航路は犠牲なしでは広がらなかった)
胸の奥の環が、痛みを含んだ音を鳴らす。
(犠牲を許せるのか? 犠牲の上に立つ未来を肯定できるのか?)
《我らは血を流し、命を落とした。
それでも繋ぎたかった――この空を》
(繋ぎたかった……それなら、俺も)
舵輪に力を込める。(犠牲を無駄にしないために、選ぶ)
視界が戻り、オルビタの甲板に立つ。
ガルドが無言で肩を叩いた。
「見たな」
「ああ。航路は血でできてた」
イシュナが頷く。「だからこそ、簡単に閉じちゃいけない」
遠くに四本目、五本目の柱が見えている。
その光は少しずつ強く、そして不穏になっていく。
「……次は、もっと重いものを見せられる気がする」
セリーヌが旋律を奏で、皆の鼓動を整えた。
「でも進むんでしょ?」
「もちろん」
胸の奥の環が深い音を響かせ、次の柱への道を照らした。