第7部 第2話 始まりの世界
オルビタが門を越えると、世界が一瞬裏返ったように感じた。
重力が逆さになり、星図の音が完全に途切れる。
次に見えたのは、広大な大地――宇宙ではなく、ひとつの“世界”だった。
「星じゃない……」エファが震えた声で言う。
空は深い赤。地平線は見渡す限り広がり、そこかしこに古い柱が突き立っている。
(ここが……航路が始まった場所?)
胸の奥の環がゆっくりと鳴り、土の匂いが鼻を満たす。
(懐かしい……でも、来たことなんてないはずだ)
近くの柱に手を触れると、光が走り、周囲の景色が変わった。
人影が現れ、土を掘り、火を灯し、空に向かって何かを描いている。
「これ……記憶?」セリーヌが息を呑む。
視界が暗転し、リュシアンは人影の背中に入り込む。
手に握ったのは粗末な刃物、指先は血で濡れている。
空間に一本の線を描くと、刃は光り、空が裂けた。
(これが……最初の航路)
胸の奥の環が同じ律で脈打ち、全身が痺れる。
(誰かが、こんな思いで道を開いたのか)
足元の大地が震え、視界に火花が散る。
(痛みと恐怖を抱えたまま、それでも前に進もうとした……)
《見えるか、継ぐ者よ》
声が響き、次々に記憶が流れ込む。
線を描いた者は一人ではなかった。
仲間たちと共に、七度の儀式を経て航路を広げた。
《七本の柱は我らの誓い。
最後の柱はまだ倒れていない。お前が選ぶのだ》
(選ぶ……? 何を)
胸が苦しくなる。答えはまだ見えない。
(でも――ここまで来た意味は、その答えを見つけるためだ)
視界が戻り、オルビタの甲板に立つ。
ガルドが眉をひそめていた。
「今、完全に意識飛んでたぞ」
「見てた。最初の航路を……」
イシュナが静かに頷く。「じゃあ次の柱へ行きましょう。
全部を見ないと、答えは出せない」
オルビタが動き出す。遠くに見える二本目の柱が、ゆっくりと明滅した。
(七本全部を辿ったとき、俺は何を選ぶ?)
胸の奥の環が静かに鳴り、その答えを急かすように響いた。