第6部 第13話 均衡を守る者たち
オルビタが光の道を抜けると、幾何学的な都市が広がっていた。
浮遊する塔、規則的に並ぶ光の道――すべてが数学的な美しさを持っていた。
「……まるで星図そのものが都市になったみたいだ」エファが呟く。
(この秩序……どこか息苦しい)
胸の奥の環がゆっくりと鳴り、警戒のリズムを刻む。
都市中央に、光の存在たちが集まった。
その中心に立つ者が名乗る。
「我らは“均衡者”。
星々が壊れぬよう、すべての力を均等に保つ者だ」
「俺たちは連邦の調停者だ。
航路を広げ、星々が互いに学び合える世界を作りたい」
「学び合う……それは均衡を壊す行為だ」
「均衡が壊れれば、やがて渦が生まれ、破滅が訪れる」
均衡者たちの声は冷たく、揺るぎなかった。
(確かに……俺たちも一度、破滅を見た)
胸の奥の環が苦しく鳴る。(それでも、進みたい)
「均衡だけでは何も変わらない。
俺たちは怖くても進む道を選んだ」
「進むたびに新たな影を生む。
それを背負い続ける覚悟はあるのか?」
(ある……第5部で、影を抱えた時に決めた)
舵輪を握り直し、強い声で答える。
「ある。俺たちは影を拒まない。共に生きる」
都市の光が揺れ、目の前の景色が変わった。
オルビタが停止し、仲間たちの姿が遠のく。
「ならば見せよう。均衡を失った未来を」
(また試されるのか……でも、もう逃げない)
胸の奥の環が白く輝き、リュシアンは一歩踏み出した。
光の中に、崩壊した未来の星図が浮かび上がった。
航路が絡まり、炎の渦に呑まれていく。
(これが……均衡を壊した未来?)
リュシアンは拳を握り、深呼吸した。
「なら、これを乗り越えてみせる」