第6部 第9話 三日の光
リュシアンは外界の広場で、民一人ひとりに言葉を届けた。
恐怖に怯える者、航路の名すら口にしたくない者――
その全員に、ゆっくりと語りかける。
「航路は脅威じゃない。
今度はお前たち自身が、繋ぐかどうかを選べる」
(届いているのか……? それともただ怖がらせているだけか)
胸の奥の環が速く鳴り、喉が渇く。
だが、やめるわけにはいかない。
夜、反対派が集会を開き、門を閉じる儀式を準備していた。
「今ならまだ間に合う! 外の者が根を下ろす前に閉ざせ!」
群衆が揺れ、暴動寸前になる。
(このままでは多数が恐怖に呑まれる……!)
リュシアンは群衆の前に立ち、声を張り上げた。
「門を閉ざすのも選択だ。
でも、一度閉じたら、二度と開けないかもしれない!」
沈黙が落ち、反対派の勢いがわずかに止まった。
夜明け前、セリーヌが旋律を奏で、都市全体に柔らかな光を広げる。
「これが、今の航路の音……」
民たちが耳を傾け、胸に手を当てた。
(そうだ……恐怖を押さえつけるんじゃない。
一緒に響かせればいいんだ)
胸の奥の環が穏やかに鳴り、広場全体に共鳴が広がった。
三日目の正午、長老たちが広場に集まった。
賛成派と反対派が列をなし、息を詰めて見守る。
「門を開くか閉じるか――決を取る」
最長老の声が響き、光と影が広場に満ちる。
(あと一票……!)
胸の奥の環が痛いほど鳴り、時間が止まったように感じる。
反対派の長がゆっくり手を上げた。
「……門を、開こう」
広場がどよめき、光が一斉に門へ集まった。
賛成多数。門がゆっくりと輝き、完全に開いた。
(これで……外界はもう、孤立していない)
リュシアンの膝から力が抜け、仲間たちが支えた。
門の向こうから、新しい星図が広がっていく。
「これで、星々はさらに広がる……」
胸の奥の環が静かに鳴り、新しい旅の始まりを告げた。