第6部 第7話 残余の影
都市の外れに開いた裂け目から、冷たい風が吹き出していた。
その奥には、灰色に染まった荒野が広がり、空は音もなくうねっている。
「ここが……恐怖の残滓の眠る場所か」ガルドが剣を構える。
胸の奥の環が低く鳴り、警戒を促す。
(前に戦った影とは違う……もっと濃い、もっと深い)
背筋が冷たくなる。(でも今度は一人じゃない)
地面が裂け、黒い巨影が姿を現した。
それは人の形をしていたが、顔は鏡のように光を反射している。
「……俺?」リュシアンが息を呑む。
(影は俺の姿をしている……? これは、俺の恐怖?)
胸の奥の環が乱れ、鼓動が早まる。
影が剣を構え、リュシアンに斬りかかる。
ガルドが前に出て受け止め、セリーヌが旋律で防御陣を張った。
「リュシアン、落ち着け!」エファが叫ぶ。
(俺は……何を恐れてる?)
影の剣が重く、斬られるたびに胸が痛む。
(そうか……俺は、また誰かを失うのが怖いんだ)
「怖くていい。怖いからこそ、守りたい!」
胸の奥の環が白く輝き、影が一瞬たじろぐ。
ガルドが一閃し、影を押し返す。
セリーヌの旋律が高まり、光の柱が影を包んだ。
「今だ、リュシアン!」エファが叫ぶ。
(もう恐怖から逃げない)
リュシアンは剣を握り、影の胸に突き立てた。
「一緒に生きるんだ、俺の恐怖!」
影が静かに崩れ、光と共に消えていった。
残ったのは、鏡の欠片のような透明な石。
「よくぞ恐怖を受け入れた。
お前たちの言葉に、重みが宿った」
(今度は勝った……恐怖と、ちゃんと向き合えた)
胸の奥の環が穏やかに鳴り、仲間たちと視線を交わす。
裂け目が閉じ、都市の光が一斉に灯った。
「次は、未来を語る時だ」案内人が告げた。
リュシアンは深く頷いた。
「さあ、交渉を始めよう」