第6部 第3話 門の番人
オルビタが巨大な門の前に停まると、空気が変わった。
音が吸い込まれ、世界が水底のように静かになる。
「……息が重い」セリーヌが呟く。
胸の奥の環も、まるで耳を澄ますように音を止めていた。
(これは、今までの航路とも影とも違う)
鼓動だけが響く。(何かが……見ている)
門の中央から光が差し、ひとりの人物が現れた。
長い白銀の髪、灰色に近い瞳。
その声は直接頭に響いた。
「ここは、外の民が眠る場所。なぜ門を叩く」
(人間……? いや、何か違う)
剣を握りかけた手を止める。(敵意は……ない)
「俺たちは航路の外を知りたい。
もしここに危険があるなら、それを確かめるために来た」
人物はしばらく沈黙し、やがて言った。
「外界に足を踏み入れる覚悟があるなら、門を開こう。
ただし、一度進めば後戻りはできない」
(ここまで来て引くわけにはいかない)
胸の奥の環が再び動き出し、強い拍を刻む。
「開いてくれ。俺たちは進む」
門がゆっくりと開き、眩しい光があふれ出す。
オルビタがその中へ進むと、景色が一変した。
そこは光も影も存在しない――
“無”の世界。しかし確かに何かの鼓動が響いていた。
(生き物の気配がする……でも誰もいない)
背筋が冷たくなると同時に、胸が高鳴る。
「ようこそ、外界へ。
我らは“残響”――過去に航路を断ち切った民だ」
リュシアンは息を呑む。
「断ち切った……?」
「我らの記憶を知るなら、この地で見よ。
お前たちの航路が生まれるより前の、世界の真実を」
光の粒子が舞い、遠い過去の幻影が広がり始めた。