第6部 第2話 航路の果てへ
三日後、オルビタの甲板には新しい装備と物資が積まれていた。
星図都市の広場には見送りの人々が集まる。
「また帰ってこいよ!」
「今度は土産話を期待してる!」
リュシアンは舵輪に手を置き、軽く笑った。
(こんな見送りを受ける日が来るなんて……)
胸の奥の環が穏やかに鳴り、しかし奥底で高鳴り始める。
(怖さよりも、楽しみの方が勝っている)
風が頬を撫で、光の航路がゆっくりと延びていく。
「行くぞ。航路の果てへ」
オルビタが滑るように進み出した。
光の道が次第に細くなり、星々の輝きが遠のく。
やがて周囲は灰色でも黒でもない――
色のない空間に変わった。
「光が……届かない?」エファが驚きの声を上げる。
(光が届かない? こんなことは初めてだ)
胸の奥の環が少し速く回り、不安の音を立てる。
羅針盤が狂い、舵輪が重くなる。
オルビタの帆が風を受けず、ただ静止するように漂った。
「まるで……空間そのものが止まっているみたいだ」ガルドが呟く。
(ここが……航路の果て)
背筋が冷たくなるが、同時に胸が熱くなる。
(これまでのどんな戦いよりも、ここでの一歩が怖い)
前方に微かな光点が現れた。
それは航路の光ではなく、脈打つように明滅している。
「信号だ……!」エファが解析を始める。
記録板に古代語のような文字列が浮かび上がる。
『ここより先は来るな ここは我らの眠りの地』
セリーヌが眉をひそめる。「歓迎してないわね」
(帰るか……いや、ここで引き返したら一生後悔する)
胸の奥の環が強く鳴り、鼓動と重なる。
「進む。眠りの地が何なのか、確かめる」
オルビタがゆっくりと光点に近づくと、
闇の中から巨大な門のようなものが姿を現した。
その門は、光でも影でもなく――
何かまったく別のエネルギーでできていた。
(これが……外航路の門)
リュシアンは舵輪を握り直し、深く息を吸った。