第5部 第11話 裂け目の中の声
リュシアンの提案に、会場は一斉にざわめいた。
「航路を解くなど愚かだ!」
「いや、これが唯一の道だ!」
代表たちの声がぶつかり合い、円卓が震えるほどだった。
(空気が崩れかけている……!)
胸の奥の環が激しく鳴り、視界がかすむ。
(ここで会議が決裂すれば、世界は二度と繋がらない)
突然、天井が揺れ、灰色の霧が会議堂に流れ込んだ。
光の航路が一部かき消え、会場が暗くなる。
「影だ!」ガルドが剣を抜いた。
(狙われた……この混乱で会議を潰す気だ)
喉が乾くが、声を張り上げる。
「全員、座標を保て! ここで逃げれば、航路は崩壊する!」
影が触手を伸ばし、代表たちを狙う。
セリーヌが旋律を響かせ、光の盾が展開された。
「防御は任せろ、リュシアン!」ガルドが叫ぶ。
(ここで剣を振れば簡単だ……でも、それじゃ何も変わらない)
胸の奥の環が白く輝き、光が床を走る。
「影よ、聞け! お前の記憶はもう俺の中にある!」
影が一瞬止まり、低い声が響く。
《お前はまた世界を一つにするつもりか》
「そうだ。だが今度は恐怖じゃなく、選択で繋ぐ」
《選択など弱い。再び闇が生まれるだけだ》
「それでも選ぶ!」
胸の奥の環が強く鳴り、光が霧を押し返す。
(恐怖で止めるのではなく、選択で光を呼ぶ)
霧が引き、会場に光が戻る。
代表たちが息を整え、沈黙が広がった。
砂塵世界の代表が口を開いた。
「今の……お前が影を退けたのか?」
「いや、受け入れたんだ。影も光も、両方を」
会場に再びざわめきが走る。
(届き始めている……ここからだ)
胸の奥の環が穏やかに鳴り、光が円卓の中心に集まる。
リアン=ヴァルドが杖を鳴らした。
「次の議題――再統合の是非について投票を行う」
会場の緊張が再び高まる。
(これが……最終局面)
リュシアンは深く息を吸い、投票の瞬間に備えた。