第八話 対戦相手、フレイア
ベアトリスとの対戦を終えた後、私は準々決勝・準決勝を難なく勝利で終えた。
──女王陛下、誠にありがとうございます。貸して頂いた魔法書、想像以上に凄いです!
準決勝で勝利した際、私は上方の観覧席にいるソフィアに視線を向ける。
ソフィアは私に気付いて、ニッコリと笑みを向けた。そして、小さく手を振る。その素敵な笑顔に、私は思わず頬を赤くしてお辞儀を返した。
──女王陛下に図書室でお会いできたことは僥倖でした。あの出会いが無ければ、私はここまで勝ち進むことはできませんでした。きっと、運命の出会いだったに違いありません。
準決勝を終えた私が舞台を降りると、決勝戦前の約30分の休憩に入った。
決勝戦は制限時間が15分から大幅に延長されて1時間となるため、観衆はこの休憩中にトイレに行ったり、観戦中の食事などを購入したりする。
舞台袖の入退場用の部屋から闘技場の様子を見ると、観客席は満席だ。売り子たちが観客席の通路を忙しなく駆け回り、客の注文を受けて、酒やお菓子を販売している。娯楽が少ないこの国で、貴族令嬢天下一武闘会は一大イベントだった。
──女王陛下はあんな風に見えて、やっぱり凄い人です。民衆がこんなにも楽しそうにしていますし、人々に活気が溢れています。闘技場の外にも出店があって祭典のようですし、とても内戦後の国とは思えません。見世物になるのを嫌がる貴族令嬢もいると聞きましたが、私は精一杯、皆を楽しませます。
私は部屋の奥にある控室に戻ると、決勝に向けて再度魔法書を読み返す。
──それにしても、女王陛下から借り受けたこの魔法書は、発動条件はあるものの、どちらかと言えば奇策に属するものですね……。
私は魔法書でいくつかの新たな魔法を覚えると、表紙をパタンと閉じて、持ってきたカバンにしまった。そして、戦闘服の身だしなみを整えた後、15分前に入場用の前室で待機した。
私は一人しかいない空間で、緊張をほぐすため、深く深呼吸する。
「エレナさん。ずいぶんと早いご到着ですね」
その声に驚いて背後を振り返ると、フレイアがニッコリと笑みを浮かべて立っていた。
フレイアは公爵家の人間だ。昨日は気さくに言葉を交わしたものの、いつも親し気に会話するわけにはいかない。
私は慌てて、深くお辞儀をする。そして、差し障りのない挨拶をした。
「本日は決勝戦でフレイア様と対戦できること、大変光栄に思います。どうか、お手柔らかにお願いいたします」
私が顔を上げると、フレイアは私の言葉に答えることなく、笑みを消して私を睨んでいた。そして、ゆっくりと口を開く。
「……あなた、ソフィア様とどういう関係なのですか?」
その気迫に私は思わず息を呑んだ。フレイアは言葉を続ける。
「先程、あなたはソフィア様と視線や笑みでやり取りしていましたが、ソフィア様と面識があるのですか?」
私は目の前で怒りを露わにするフレイアに戸惑いながら、数週間前の読書会のことを話した。
「実は先日、女王陛下がお書きになった恋愛小説の感想会に招待されたのです。私と女王陛下だけの小さなお茶会です。その時に、恋愛小説について陛下とお話しいたしました。そのため、私は女王陛下と面識がございます」
私がそう言うと、フレイアはきょとんとした表情を浮かべる。
「ソフィア様が書かれた恋愛小説? なんですか、それは?」
私は失言したと感じ、フレイアから視線を逸らす。すると、フレイアが早足で私に迫ってきた。
「答えなさい! 隠し事は許しません!」
昨日の優しい様子と全く違うフレイアに、私は動揺しながら答える。
「えっ……えっと、女王陛下の許可なく勝手にお話ししても良いものか分かりませんので……」
フレイアは、そんな私の肩を持つと激しく揺すった。
「もしソフィア様やその侍女に責められることがあったら、私の名前を出して構いません! ですから、早く答えなさい!」
私は諦めて、ソフィアが書いた恋愛小説のことを全て話す。そして、ネタバレにならないように、冒頭のあらすじ部分だけを簡単にフレイアに伝えた。
フレイアは少し目を見開き、感動した様子で口元に手を当てた。
「とても素敵なお話ですね……。私もソフィア様の小説を読みたかったです。ソフィア様は、どうして私には教えてくださらなかったのでしょうか……」
フレイアはそう言った後、ひどく落胆する。その様子に、私は彼女がソフィアのことを心から好きなのだと実感した。私は落胆する彼女が勘違いをしていると気付き、その誤解を解いた。
「ご安心ください。小説は私向けのものではございません。もともと女王陛下が、王族専用の図書室の本棚に置こうとしていたものです」
フレイアは子供のような上目遣いで私を見る。
「……そうなのですか?」
「はい。ソフィア様のお名前を出すと正直な感想を聞けないとのことで、恋愛小説は『ペンネーム』という別の名前で書かれていました。私は武闘会の勉強で図書室に通っていたのですが、その時に偶然居合わせた女王陛下から、本を押し付けられ……いえ、お貸しいただいたのです」
フレイアの表情が目に見えて明るくなった。
「なるほど、そういうことだったのですか。それでは、エレナさんはソフィア様と凄く親しいわけではないのですね。いずれにしても、本日天下一武闘会を終えたら、私はすぐに図書室へ行き、ソフィア様の小説を読破しようと思います」
フレイアはそう言うと、私に昨日までの優しい笑みを向けた。
「先程は無礼な態度を取ってしまい、大変失礼いたしました。ソフィア様があまりにも魅力的ですので、私以外にも近付こうとする不届きな輩がいるものと勘違いしてしまったのです」
フレイアが冗談っぽく言うその言葉に、私は少し顔を青くする。もしソフィアに近付こうものなら、私は天下一武闘会ではないところで、フレイアに半殺しにされる気がした。
私が顔を引き攣らせて笑みを返していると、フレイアが部屋の外に見える舞台に視線を移す。
「いよいよ決勝戦ですね。対戦相手はベアトリスになると思っていましたので、エレナさんがここにいらっしゃるのは少々意外でした。ですが、今までのエレナさんの戦いを見ていますと、とても面白い戦いになりそうな気がします」
私も視線を部屋の外に向ける。
「はい。私もフレイア様の戦いを見て、同じように感じました。どうか全力でかかってきてください。私も全力を出して、フレイア様を叩きのめします」
フレイアは私の言葉を聞いて一瞬驚くと、困ったような笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
私は、舞台に立つ正面のフレイアを見つめた。彼女は両手を上げ、神剣を呼び出す詠唱を始める。
しかし、今までの対戦時とは明らかに異なる詠唱だ。フレーズが長く、フレイアの声が低い。次第に、彼女の声に高音と低音が混じり始め、まるで複数人で詠唱しているかのような不思議な詠唱になった。
「……戦いを司る軍神マルスよ。私はそなたに魔力の半分を差し出す。どうか、目の前の強敵を消し去る破滅の剣を我が手に……」
フレイアは、両手を胸の前でパンっと音を立てて合わせる。
「出でよ。我が神剣ライネシア!」
闘技場の上空に暗雲が立ち込める。そして、フレイアの左手から神剣の柄が現れると同時に、今まで見たこともないような毒々しく禍々しいオーラが漏れ出した。
フレイアが手の平から神剣を一気に抜くと、闘技場内に邪気がほとばしった。舞台に強力な結界があるお陰で、観客席には被害はないが、私の目の前に無数の邪気の刃が飛来してくる。私は即座に防御結界を展開して、その「おまけ」の攻撃を必死に防いだ。
──これがフレイア様の本当の力……。ベアトリス様の比ではありませんね……。
フレイアは神剣を一気に振り上げる。すると、結界を超えて大きな風が発生し、空を覆っていた暗雲を瞬時に吹き飛ばした。
雲が晴れた空には太陽が姿を見せ、私達を照らす。フレイアは、私にニッコリと笑みを向けた。
「エレナさん、大変お待たせいたしました。ご希望通り、全力でかかって来ていただいて構いません」
私も詠唱を行って神剣ローレライを取り出し、フレイアに向けて構える。しかし、神剣を持つ私の手がかすかに震え、それを止めることができなかった。
「フレイア様はやはり凄いお方です。私の身体は、フレイア様の神剣が放つ邪気への恐怖で震えが止まりません。しかし、先程も申し上げた通り、優勝するためには、たとえフレイア様が公爵令嬢であっても容赦はしません」
私は神剣を掲げ、上から下に大きく振り下ろした。それと同時に、周囲に美しいハープのメロディのような音が響く。
しかし、ベアトリスとは異なり、神剣を構えるフレイアには何の変化も見られない。ローレライに魔力を奪われることはなく、身体の力も抜けていないようだ。
──フレイア様は、最初にライネシアに魔力の半分を捧げていた。もしかすると、フレイア様の神剣のレベルが高すぎて、ローレライの音による魔力剥奪効果が相殺されてしまっているのかしら?
フレイアは私の神剣の効果がないのを確認した後、舞台を蹴って、私に襲い掛かってきた。フレイアの神剣ライネシアが、空間を切り裂くような闇の筋を残しながら、私に振り下ろされる。
私は神剣ローレライでそれを受け止めた。
「くぅっ……!!」
フレイアの神剣の力はベアトリス以上だ。清楚可憐で弱々しく見えるフレイアのどこに、こんなに力があるのだろうと思えるぐらいの重い斬撃だ。
──このままだと私のローレライでも耐えきれない!! 早く後方に逃げないと斬られる!!
私が後ずさる仕草を見せると、フレイアは交えていた神剣で私を力一杯押す。そして、バランスを崩した私の隙を見て一気に接近し、右手を私の身体に押し当てた。
「氷の女神ボアレスよ! この者の足の動きを封じよ! 特級魔法、フリージア!!」
その瞬間、私の足に氷が絡みつき、移動することができなくなった。私は神剣ローレライを必死に動かして、フレイアから放たれる四方八方からの攻撃を受け止めては弾く。彼女は私の手足の切断を狙っているようで、氷が絡みついた足への攻撃が激しい。
──マズイっ!! 早く魔法解除しないと!!
私はフレイアの攻撃を受けながら、魔法解除の詠唱を何度も行った。しかし、全く効果はなく、むしろ氷は私の腰の位置まで伸びてきている。
──私の魔力では特級魔法の解除ができない!! こうなったら、魔法書の力を借りるしかない!!
私はフレイアの攻撃の合間を見て、片手を神剣ローレライから離し、空に向かって掲げた。
「軍神マルスよ! 偉大なる王国建国者の代理人として、エレナ・リヒターが命じる! 王の力によって、私に害をなす魔法を無効化せよ!」
その瞬間、私の足に絡みついていた氷が蒸発するように消え去った。私は慌てて後方に飛び、フレイアとの距離を取る。
フレイアはその場で呆然とした後、唇を震わせながら口を開いた。
「そんな……。私の特級魔法は、ソフィア様に匹敵する魔力の持ち主しか解除できないはずなのに……」
しかし、フレイアはすぐに気を取り直すと、神剣をぐるぐると振り回す。
「……まぁ、いいでしょう。どんな特別な魔法を使ったのか分かりませんが、さすがベアトリスを倒してここまで這い上がってきただけあります。相手として不足はありません」
彼女は少し足を開き、フェンシングのように、神剣を私に突き刺すような体勢で構えた。
「私は、ソフィア様との婚姻が懸かったこの天下一武闘会に負けるわけにはいきません。こうなったら、全ての魔力を使って神剣を強化し、あなたの胴体を両断します。上級魔導士達が治癒魔法を掛けるまでの間だけ、どうか耐えてください」
私はフレイアに視線を向けたまま、神剣ローレライを構えて後ずさる。
そして、小声で、王族の魔法書に書いてあった魔法を唱えた。この魔法で膨大な魔力を消費してしまうため、追加の魔法を唱えることはできなくなるが、これから襲い掛かってくるフレイアの攻撃を耐えきるためには仕方がない。
一方のフレイアは、神剣ライネシアの刃に自分の右手をスーッと当てていく。すると、刃から溢れ出る邪気の漆黒度合いが強くなった。直感的に、その邪気には一瞬で人の胴体を切断してしまうほどの威力があると分かった。
フレイアが床を蹴って、私に飛び込んできた。
「はぁぁーっ!!」
彼女は、邪気を帯びた神剣ライネシアをフェンシングの剣のように素早く繰り出す。そのスピードは常人のものとは思えないもので、平民であれば一瞬にして穴だらけになってしまうものだ。
私はフレイアの攻撃を神剣ローレライで弾きながら、身体を素早く動かして彼女の攻撃をかわしていく。
フレイアは猛スピードの斬撃を繰り出しながら、私の動きを見て目を大きく見開いた。
「どういうことですか!? 私の剣さばきが見えるのですか!? そんなこと、あるはずがありませんっ!!」
彼女はさらに剣さばきのスピードを上げる。私は神剣を駆使して、必死にその攻撃を防ぎ続けた。
しばらくして、フレイアの息遣いが荒くなってきた。全ての魔力を神剣の強化に使用したこともあり、さすがの彼女でもこのレベルの攻撃速度を維持するのは大変なようだ。
そして、威力が弱まってきたフレイアの斬撃が私の真横を通過した時、一瞬だけ彼女に隙が生まれた。
私は一歩前に踏み出て、フレイアの真横に接近する。そして、彼女に声を掛けた。
「フレイア様、これから働く無礼、どうかお許しください! 傷は、後で上級魔導士に治してもらってください!」
フレイアが私に驚いて後退しようとする瞬間、私は彼女が身体のバランスを取るために横に伸ばしていた左腕に照準を定めた。
「やぁぁーっ!!」
私は下から救い上げるようにして、フレイアの左腕を神剣で切り落とした。彼女の左腕は血飛沫を上げながら、舞台の上に落ちる。
「ぁぅっ……!!」
フレイアは声にならない悲鳴を上げて、右手で神剣を構えたまま、後退した先で片足で跪く。
私は神剣の切っ先をフレイアに向けた。
「フレイア様、終わりです。降伏してください」
フレイアは激痛に顔をしかめながら、私に鋭い視線を向けて睨んだ。
「まだです!! まだ終わっていません!!」
フレイアの心臓の鼓動に合わせるように、左腕から血液が定期的に滴り落ちた。
「このまま出血が続けば、フレイア様の命に関わります。どうか、もう諦めて降伏してください。対戦の残り時間もあと僅かです。フレイア様はもう、私には勝てません。私はこれ以上、フレイア様を傷付けたくありません」
私の言葉を聞いたフレイアは眉間に皺を寄せると、悔しそうな表情を浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。
「私もなめられたものですね……。先程ベアトリスがエレナさんに負けそうになっていた時、『さっさと降伏すれば良いのに』と思っていましたが、こういう会話をしていたのなら、絶対に降伏したくありません。ほんの少しだけ、ベアトリスに同情してしまいました」
フレイアは残った片手で神剣を構える。そして、足を踏み込んだ。
「はぁぁ~っ!!」
負傷前と変わらないレベルのフレイアの斬撃が私を襲った。
「フレイア様! お願いです! もうおやめください!」
私の声はフレイアに届かない。普段は優しい笑みを浮かべるフレイアの表情は鬼のようになり、目は血走っている。おそらく、神剣に膨大な魔力を注入し続けていた影響なのだろう。
私はフレイアの攻撃を神剣で防ぎつつも、その剣圧に押されて後ずさっていく。フレイアはさすが国王軍最強と言われるだけあり、片手だけになっても、斬撃の速度も重さも、他の女性貴族の比ではなかった。
「あと少し!! あと少しで、あなたを舞台から落とせます!! 私が優勝するんです!!」
剣を振るフレイアの口角が上がる。
──フレイア様は本当に凄い。このままだと、私は負けてしまいます。……最後は自分の力で勝ちたいと思いましたが、仕方がありません。
私は舞台ギリギリのところまで追いつめられると、神剣を持っていない方の片手を上げた。そして、ソフィアに視線を向ける。
「軍神マルスよ! 偉大なる王国建国者の代理人として、エレナ・リヒターが命じる! 私に近付く邪悪な者の進みを止める力をわが手に!!」
その瞬間、私の神剣ローレライから、会場を包み込むような強い光が発せされた。
「なっ……なんなのですかっ!?」
フレイアが神剣を持つ腕で目を覆いながら、攻撃を一旦やめて後ずさる。
そして、しばらくして眩い光が消え去った後、フレイアは目を隠していた腕を下げた。
「えっ……? どうして、青空が見えるのですか?」
フレイアは目を大きく見開く。私は彼女の眼前に、神剣ローレライの切っ先を突き付けた。
「フレイア様、全て終わりました。どうか、すぐに降伏してください。倒れる際にフレイア様の後頭部は保護しましたが、手足の出血はお命に関わります」
フレイアは驚いた表情のまま、視線を自分の足の方に向けた。
彼女の両足は太腿から下が切断され、流血している。切断されたばかりの時は無痛だったようだが、次第にフレイアの顔が激痛でゆがんできた。
「……ぅぅっ、ぁあっ!!」
「今すぐ『降伏する』とおっしゃってください! 身体再生せずに、今の腕と足を再接続できる時間が迫っています! 上級魔導士達も、すぐにフレイア様に駆け付けられる距離に移動してきています!」
フレイアは脂汗を額に浮かべて顔をしかめながら、片方の口角を上げて笑みを浮かべた。
「誰が、あなたなんかに降伏するものですか!! 私はソフィア様付の公爵家の人間として、たとえお遊びの戦いでも降伏などしません!! こんな無様な姿をソフィア様に見せた上に、命乞いをするように降伏するのなら、私は死んだ方がマシです!!」
私はその言葉を聞いて、ベアトリスの時と同様に、フレイアへの降伏勧告を諦めた。
「……分かりました。それでは、すぐに勝負を付けましょう」
私はフレイアの隣にしゃがむと、身体を捻じって嫌がる彼女を抱きかかえる。彼女は残った片手で私を叩いたり引っ掻いたりするが、その力は普通の少女のものと大差なかった。私は、彼女が顔を攻撃してこないようにギュッと抱き締めて舞台の端に向かう。
そして、舞台の端に到着すると、なるべく衝撃が少ないように彼女を地面に落とした。
すると、フレイアの切断された腕と両足を持った上級魔導士達がすぐに彼女に駆け寄った。
彼らはフレイアの腕と両足を本来あるべき場所に置くと、全員で同時に強力な治癒魔法を掛ける。フレイアの腕と両足がその切断面に吸い寄せられるようにくっ付き、傷が癒えていった。
「どうして……。私が負けるなんて……」
フレイアは地面に大の字に寝たまま、治癒魔法を掛けられている間、ずっと悔し泣きをしていた。しかし、対戦中に流れ出した血液の再生は治癒魔法では追い付かないようで、フレイアは意識を失うように、その場で眠りに落ちた。
私はそれを見届けて、舞台の中央に戻る。審判が私に駆け寄ってきて、私の片手を持ち上げた。
「天下一武闘会の優勝者、リヒター伯爵家エレナ!」
観客が大きな歓声を上げた。
こうして、貴族令嬢天下一武闘会は、私の優勝で幕を閉じた──。