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第一話 リヒター伯爵家の長女(プロローグ)

本作品は、以下の作品からのスピンオフです。


「夢かなって異世界の王女様に転生しましたが……、この王女様、思ってたのと全然ちがう!」 ~廃嫡寸前のダメ王女に転生した私、魔法王国のキラキラ王女様を目指す~


上記の設定を基にしていますので、本作品だけを読んだ場合、キャラクターの性格やノリを理解できないかもしれません。

ただ、なんとなく読み進めることはできると思いますので、もしよろしければお読みください。

 私宛に突然、憧れの女王陛下からの招待状が届いた。


 私は全ての侍女を自室の外に追い出すと、王宮から届けられたばかりの招待状を手に取る。


 招待状を持つ私の手が震える。誰もいない部屋の中、私は頬を紅潮させたまま(せわ)しなく部屋の中を歩き回り、光が差し込む窓際を招待状を開封する場所に選択した。そして、封筒から書状を取り出す。


 書状を開いて読み進めていくと、私が想像していた招待状の内容とは異なったが、しかし、心のどこかでずっと待ちわびていたものが私の目に飛び込んできた。


「あぁ、遂にこの時が来たのですね……。この機会を、私はどれだけ待ちわびたことか……」


 あまりの嬉しさに、私の頬が熱くなる。


「私が私でいられる世界……。偽りの私を捨て去って、本当の私をさらけ出すことができる場所……。ふざけているようにも思えるイベントですが、私はこれをずっと待っていたのかもしれません」


 私は片手をギュッと握りしめると、その(こぶし)を天高く突き上げた。


「女王陛下はやはり天才です! そして、『貴族令嬢天下一武闘会』へのご招待、誠にありがとうございます! 私、必ず武闘会へ参加いたします! そして、優勝を手にして、子供の頃からの願いを叶えます!」


 私は部屋に誰もいないことを確認して深く息を吸い込む。そして、大声で叫んだ。


「伯爵令嬢なんて、クソくらえですっ!」


 家庭教師にお(しと)やかに育てられたはずの私は、貴族令嬢としてあるまじき言葉を吐いて興奮したまま、どこまでも続く青い空を窓越しに見上げた。


    ◇ ◇ ◇


 私はライゼンハルト王国の中級上位の貴族、リヒター伯爵家の長女エレナとして生まれた。


「エレナ。お前は常に完璧な女性貴族でありなさい。リヒター家の繁栄ために、その身を捧げるのだ」


「はい。お父様」


「エレナ。あなたはもっと気品と教養を身に付けなさい。そして、嫁いだ貴族に取り入り、私達リヒター家に利益をもたらすのです。王国では女性貴族が家を(おこ)しも(つぶ)しもします。あなたは外側から私達リヒター家を支えなさい」


「はい。お母様」


 幼少の頃から、私の一日は、朝食での両親との一方的な会話で始まる。


 そして、両親が食事をしている間、私は一切動いてはならない。膝の上に両手を重ねて、目の前のテーブルに置かれたパンにも手を付けず、ひたすら両親が朝食を終えるのを待つのだ。


 ──お(なか)()いたなぁ……。


 生きている以上、どうしても止められない生理現象がある。目の前のパンをじっと見ていると、私のお腹が小さくキュウッと音を立てた。私は慌てて、頭を下げて両親に謝罪する。


「もっ……申し訳ございません!」


 すると、父親のヨーゼフがナイフとフォークを皿の上に置いた。


「エレナ。私達が食事をする程度の短い時間ですら、空腹を我慢できないのか?」


 私は(うつむ)いて、ギュッと両手を握りしめる。母親のレオノーラが口を開いた。


「そんな品性下劣では、他の貴族令嬢に馬鹿にされますよ。貴女(あなた)はもうすぐ十歳です。お茶会でお腹を鳴らしたら、皆の笑い者になります。私に恥ずかしい思いをさせないようになさい」


「申し訳ございません……」


「あなたのお茶会への初参加を延期します。まだその資格が無いようです。あと数年、礼儀と忍耐を勉強しなさい」


「承知いたしました」


 私はひたすら両親に頭を下げ続けた。ただ、正直なところ、どうしてこんなことで怒られなければならないのか、幼いながらも私は納得できないでいた。


 私が(うつむ)いて唇を噛んでいると、父親が私に目を向けた。


「そうか、エレナは間もなく十歳になるのか。であれば、そろそろ有力な貴族の子息と婚約させねばならぬな」


 その言葉に、私はハッとするように顔を上げた。


「あら、婚約と言いましても、どこか当てはありますの?」


 母親の反応に、父親は軽く(うなず)く。


「実は先日、ローゼンタール伯爵から、ご子息とエレナの婚約を提案されたのだ。エレナはまだ幼いと思っていたから回答を保留していたのだが、十歳になるのであれば、これを機に受諾しても良さそうだな」


 ──えっ? 私が婚約?


 私は父親を止めようと口を開こうとしたが、母親が先に反応した。


「ローゼンタール伯爵家と言ったら、王国でも由緒ある名家ではないですか! 向こうから婚約の打診をしてくださるなんて、信じられません! すぐに受諾すべきです! リヒター伯爵家がローゼンタール伯爵家と結べば、王国でも上位の貴族になれます! 私も上位貴族のお茶会に参加できますわ!」


 興奮する母親に対し、父親は軽く笑みを浮かべた。


「やはりお前もそう思うか。ローゼンタール伯爵は浪費家らしいから、おそらくエレナの持参金の前金が目当てだろう。しかし、金銭で上位貴族の仲間入りができるなら安いものだ」


 私は少しだけ手を伸ばして小声で「待って……」と言うも、二人の耳に私の声は届かない。


「では明日、早速ローゼンタール伯爵に受諾の返事をしてくる」


 私は口を閉じ、伸ばしていた手を膝の上に戻して重ね、手元を見るように(うつむ)いた。


 ──二人とも、私の気持ちを聞いてはくださらないのですね……。会ったこともない人と婚約なんてしたくないのに……。


 私は嬉しそうに話す両親を余所に、ギュッと両手を握りしめる。


 ──私の人生は一体何なのだろう……。他の家の貴族令嬢も同じなのかな……。


 私は少しだけ視線を上げる。


 視線の先に置かれた、口に入れてはいけないパンまでの距離がとてつもなく遠い。


 ──目の前のパンを自由に食べられないなんて、私は平民未満の貴族なのかもしれない……。


 わずか数十センチの距離に置かれたパンを、私は(うつ)ろな目でじっと見つめた。


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