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2024年10月13日午後9時58分港区

   1



 “特務課”の情報管制棟と呼ばれる建物は本部と併設されていた。

 外観は鉄筋コンクリート製の地上七階建てと普通のビルと大して変わりはない。だがセキュリティの硬度はこの国随一と言ってもいいだろう。

 その理由として、ここには機密情報や重要な技術が保管されているため、他国のスパイなどに狙われることが多い。

 そのため不審者が侵入した場合には“特務課”がすぐに駆けつけられるように、本部の近くに配置したのだ。また、魔術テクノロジーをふんだんに使用した最新防衛設備や、万が一情報が漏れた場合に情報を完全に消去する機能など、どこにも穴が見当たらない程に完璧な要塞と化している。

 その甲斐あってか、これまで情報を入手するどころか、施設の侵入出来た者は未だにゼロという脅威的なセキュリティの硬さを誇っていた。


 そんな難攻不落の要塞で二人の警備員が巡回をしていた。


「そっちの方、異常あったか?」

「いや、無かった。そっちは?」

「こっちも異常ナシ。俺らが着任してから異常があったことがないよな。こんなところ警備する必要が本当にあんのかね。今まで一回も侵入出来た奴はいねぇんだろ?俺らなんのために警備してんだよ」


 一人が自分たちの仕事について不満を漏らす。

 もう一人もそれに続くように、


「本当それな。こんな夜まで働かせんなっつーの」


 男は苛立った様子で近くの柱を蹴りつける。

 だが柱はコンクリートでできているため、密度が大きく、彼の足にジーンと不快な感覚が広がっていく。そのことにさらに苛立ち、吐き捨てるように舌打ちをした。

 それに見かねたもう一人の男は提案をする。


「まだ巡回の途中だけど、もう警備室に帰って今日のドラマ見ようぜ」

「おっ、いいねぇ」


 そう言い、二人は巡回を途中で切り上げ急いで警備室と呼ばれる部屋の方へ戻ろうとした。

 踵を返し、反対方向へ歩を進める。


「_____、__!」


 周囲は静かで小さな音でも目立ってしまう。

 小さな水道の音や、建物が軋む音さえも鮮明に聞こえる。


「___。___?」


 最初の曲がり角へ辿り着いたところで一人が突然立ち止まった。

 心なしか肩が震えているように見える。

 そして言う。


「…なぁ、何か聞こえないか…?」


そう言われ耳を澄ませていると、確かに聞こえる。


「____、__。」


 何者かの声が。

 確実に。


「嘘だろ…、ここは“特務課”の情報管制棟だぞ……!?」


 心臓の鼓動が跳ね上がる。

 耳のすぐ横で心臓が脈打っているような錯覚に陥る。

 だが仕事だ。

 これを見ぬふりしたら、“特務課”の看板に泥を塗ることになる。そんなことになったら、比喩的な意味ではなく、物理的にクビが飛ぶだろう。

 今の日本はそれを肯定している。許されるのだ。

 だからやるしかない。

 まさかこの数々の手練れをいとも容易く一蹴してみせた難攻不落の要塞が侵入者を許すとは夢にも思わなかっただろう。

 

 二人は恐怖に抗いつつも、声が聞こえるの方向へ一歩一歩、着実に歩を進めていく。このような経験は着任以来皆無だったためか、体の至る所がガクガクと震え、冷や汗が頬をつたる。そして声が聞こえてきたきた曲がり角に到達し、手をかけ、息を荒くしながら恐る恐る向こう側を覗き込んだ。そこからは確かに人の声が聞こえてきたはずだ。


 ……しかし、そこには誰もいなかった。


 男は胸を撫で下ろしながら、


「なんだよ…誰もいねぇじゃねぇかよ‼︎お前が変なこと言うからマジでビビったわ‼︎冗談はよしてくれよな、情報管制塔(ここ)に入れる輩なんているわけがねぇんだからよ」


 そう言い、もう一人の方を向いた。


 ……しかし、そこにも誰もいなかった。


「…は?」


 時間が止まったかのように感じたのと同時に、彼の思考に一瞬の空白が生まれる。何が起こったのか、その理解がなかなか完結しない。だが今在る事実はたった一つ。そこにいるはずの人間がいない、ということだ。

 そんなもの到底理解できるはずがない。故に、男は理解の容易な思考へと逃げる。


「おい‼︎また何かの冗談か⁉︎そろそろ洒落になれねぇぞ。早く出てこい。俺はドラマの続きが気になって仕方がないんだよ‼︎わかったらさっさと出てこい‼︎」


 怒鳴り声が建物内に大きく反響した。

 男は仲間を見つけ出すために辺りを見渡す。そこにはコンクリート製の壁と深い深い闇のみが広がり、男一人が隠れることができるほどのスペースなどは見当たらない。その事実に脳内に不安と恐怖が渦巻き、全身中の毛穴という毛穴から嫌な汗がドッと噴き出す。


「これ以上は冗談になんねえぞ‼︎‼︎」


 依然として、声が木霊するばかりで闇からの応答はない。

 まさか自分がホラー映画のシチュエーションを実際に体験することになるとは夢にも思わなかっただろう。男は極度のストレスによる眩暈か、自然と後ろへと蹌踉けてしまう。

 すると何かを踏んだ感覚が足の裏に広がった。建物の廊下にあるに相応しくない、相当な大きさであることを瞬時に把握する。

 男は視線を足下に落とす。暗くてよく見えないためか、頭を前に持っていき、目を細める。


「うわああああぁぁ‼︎‼︎」


 もう一人の警備員。

 白目をむき泡を吹きながら倒れている。最早、生きているのか、死んでいるのかさえもはっきりとしない。ただこれだけはわかる。これは外部からの刺激によって起こったもの、つまり何者かから攻撃されているということだ。

 男は必死で考える。


(何が起こったのか分からないが、まずはここからの退避、そして“特務課”に通報だ‼︎倒れてるこいつは…知ったこっちゃねえ‼︎己が身が最優先に決まってんだろ‼︎‼︎)


 携帯電話を手に取り、“特務課”への番号を速やかに入力するよう試みるも、焦っているのか、恐怖によるものか、うまく数字が打てない。

 だが震える手をなんとか抑え、発信ボタンを押し、携帯電話を耳に当てる。

 

 

 それが彼が覚えていた最後の行動だった。


 次の瞬間、男は重力によって押し潰された。




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