某日某所
与野原慶は優しい性格の持ち主だ。
老人や子供が困っていたら必ず手助けをし、ある日はボランティアで行事の手伝いを行い、災害が起きた際には少なくない金額を寄付している。他にも自身の得意分野である科学で祖国のため、“特務課”科学顧問として魔術テクノロジーの進歩に尽力してきた。
そんな与野原は今日も今日とで、道に迷っているであろう老婆の手助けをしている。
「ばあちゃん道わかる?手伝おうか?」
そう言い与野原は老婆から目的地を聞き出し、老婆が持っていた荷物を肩に担ぐ。
ごめんなさいねぇと老婆は謝意を口にするが、与野原は笑顔で、
「いいよいいよ。年上には敬意を払わなきゃだからね」
そう言い目的地まで歩き始める。
道中、落ちていたペットボトルを拾い上げ、最寄りの自動販売機の横のリサイクルボックスに捨てる。
彼はそんな小さな”イイコト“の積み重ねが巡り巡って自分に返ってくると考えており、手で届く範囲の人助けはなるべくするようにしている。世間一般で善人と呼ばれる部類の人間だ。
当然、彼の周りの人間は彼に好意的な印象を持っている。
与野原は老婆の目的の地へ着き、荷物を丁寧に手渡す。
そして手を振りながら、
「それじゃ、行くから。気をつけてね」
そう言い残しその場から去る。
______
与野原は老婆と別れた後、その街の周辺を缶コーヒー片手にふらついていた。
鼻唄混じりに歩いている彼の格好は、半袖半ズボンの上から白衣を羽織り、背中にはリュックサックというなんとも斬新な組み合わせをしていた。おまけに彼の足元に目をやると、雨でもないのに意味もなく長靴を履いている。
はたから見ても見なくても相当にルーズな格好をしていた。
とてもじゃないが科学者、それも“特務課”の重役についている者の身だしなみとは思えない。
そんな与野原には日頃からの日課が存在する。
その日課をこなすために辺りをキョロキョロと見回す。奇天烈な格好も相まってかやっていることは完全に不審者のように見える。周りの人々がヒソヒソと何か言っているがそんなことを彼は気にする様子はない。
与野原は優しくはあるが、勿体無いことに結構な変人でもあるのだ。
「おっ」
与野原は何かを見つけると同時に間抜けな声を出す。
そして視線の方向へ向かって少し小走りをする。
「今日はここにしようかなぁ」
そんな独り言を漏らし、立ち入ろうとしたのは薄暗く、生臭い匂いのするビルとビルの間の裏路地だ。
放置された生ゴミや、それを貪り食う見るからに貧しそうな男とドブネズミ。そんな光景が薄暗い路地の奥の方に見える。
与野原は仮にも“特務課”の科学顧問、言うなればエリートだ。
こんな場所は与野原にとって縁のない場所に思える。
しかし、これは彼にとって日課なのだ。
なんの躊躇もなく狭い路地に足を踏み入れる。
こんなところで何をするのだろうか。
狭い裏路地では足音がよく響く。
うずくまる汚らしい格好の男や、おそらく養うことができず親に捨てられたであろう痩せ細った子供。そんな人々が裏路地の奥深い場所に行くにつれて多くなってゆく。魔術テクノロジーは日本や世界を発展へと導いたが、それの影響で彼らのような職を失った者、社会の輪から弾き出された者が今の日本には多くいる。
与野原はそんな人々を眺めてから、
「よし…やるかね」
そう呟き、彼は背中のリュックサックからおもむろに取り出したのは、サブマシンガンだ。
一瞬、周囲が静寂に包まれる。
まるで嵐の前の静けさのように。
『ッドガガガガガガ‼︎』
乱射する。
それまで不気味な静けさをしていた裏路地を阿鼻叫喚の嵐が襲う。
子供だろうが女だろうが関係なく十人、二十人と続々撃ち殺されていく。彼らは助けを求めるように、必死に叫ぶ。
だがここは裏路地の最深部。彼らの絶叫は表の人々には届かない。
「ンヒャヒャッヒャんヒャヒャ‼︎」
そんな中で一つ下品で汚い与野原の笑い声が響く。
与野原慶は優しい性格の持ち主だ。
老人や子供が困っていたら必ず手助けをし、ある日はボランティアで行事の手伝いを行い、災害が起きた際には少なくない金額を寄付している。他にも自身の得意分野である科学で祖国のため、“特務課”科学顧問として魔術テクノロジーの進歩に尽力してきた。
そんな与野原は今日も今日とで日課である街の掃除をしている。
裏路地に溜まった汚い“ゴミ”たちを道具を使って綺麗に掃いていく。
裏路地は“ゴミ”がよく溜まる場所だから丁寧に掃除をする。
一粒、いや一人も逃さないように。
丁寧に。
じっくりと。
そう……“イイコト“は自分に返ってくるのだから。
与野原慶は優しい性格の持ち主だ。