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2024年10月13日午後9時15分北区

(助かった…?いやそんなことより、なんで黒原くんがこんな所に…?)


 綺世は金髪の少女を見つめている。

 少女の方も薄い笑みを浮かべながら、同じ様に見つめ返している。


「そこの“特務課”、君はその倒れてる人を連れて速く逃げろ」


 少年は逢坂の方を見ずに言う。

 その口振りは彼女を逢坂響だと認識していない様だった。


「でも……、」

「そのままだとそいつ、死ぬぞ」


 綺世は天童に指を差しながら、


「そいつは血が出過ぎている。手遅れになる前に手当てをしたほうがいい。だから速く逃げろ」


 逢坂は苦い表情を浮かべる。

 綺世を置いて逃げることに抵抗がある様だった。

 だが、天童が死んでしまうという言葉が刺さったのか、彼女は決断する。

 既に無効化の魔術が切れた彼女は魔術で氷を精製し、天童を運び出した。

 金髪の少女はそれを追おうとはしなかった。

 『実験室』の扉がキィーッという甲高い音を鳴らしながら閉まる。

 その空間は綺世と金髪の少女の二人だけのものとなった。


「お前が情報屋の言っていた、俺たちを追ってる輩で間違いないな」


 沈黙を破る様に綺世が口を開く。


「その通りだ。会いたかったよ、黒原綺世。写真で見るよりずっと男前だね」


 少女はそんな冗談を交えつつ、


「最初に言っておくが君と争うつもりはない。そこのところは理解してくれ」


 そう念を押し、本題へと移ろうとするが、その前に黒原綺世が問いかける。


「これはお前のものか?」


 そう言い、自身が来ている上着のポケットから取り出したのは、先程4階で拾った数枚の書類であった。

 その書類の一枚目に記されていたのは、



【 黒原綺芽より抽出された魔術の威力及びに汎用性に関する実証実験結果 】



 それを見た瞬間、少女は少し驚いた表情を見せたが直後にニヤリと冷たい笑みを浮かべた。


「これはお前のものか?」


 綺世は再び問う。

 心なしか殺気立っている様子だった。

 少女は笑いながら答える。

 まるでこの質問を待っていたとばかりに、



「そうだ……、

———()()()()()()()()()()()()()()()()()()



『ッドンッッ‼︎』


 その瞬間、重力操作によって出した爆発的な速度は音速に達していた。

 綺世は地面を蹴り、轟音と共に少女を壁に押さえつけたのだ。

 そして鬼気迫る顔で少女を睨む。

 だが少女の表情は変わらない。


「言ったはずだ、私に戦闘の意はないと。その手を退けてくれ」

「お前の知ってる情報をすべて吐け」


 綺世は少女の言葉に聞く耳を持たない。


「君の目には、私が自分に利のない行動をとる人間性があるように見えるかい?あいにく私は価値のある情報をタダで渡すほどの善人じゃないんでね。今日ここに来たのは君と取引をするためだ。」

「取引なんてしない。お前は綺芽の何を知っている⁉︎」


 綺世が力を強める。

 少女のか細い体がミシリと悲鳴を上げる。

 だが臆する様子はない。


「別に無理矢理情報を引き出そうとしても構わないけれど、君も見ただろうが私には空間転移がある。君からはいつでも離れることができるんだ。つまり、君が妹の情報を手にするにはこの取引に応じるしか無いんだよ。さて、どうするかい?」


 綺世はチッと舌打ちをし、少女を押さえている腕を離す。

 取引をする決断を下したのだろう。

 金髪の少女は満足そうな表情を浮かべる。


「目的を達成すれば綺芽の情報を教えるんだな?」

「ああ、もちろんだ」

「じゃあ俺は何をすればいい?」


 少女は一つ間を置く。

 そして言う。



「私の“心臓”を持ってくる。それが取引の条件だ」


「何を言っている?」


少年は訝しげに聞く。


「まぁ話は最後まで聞け。先程、君も見ただろうが私は複数種の魔術使うことができる。だが君たちの”魔術は一つしか持つことができない“という常識が間違っているというわけではない。私はそもそも人間の域を超えた存在なんだ、それも()()()()()()()()、ね」

「…⁉︎サイボーグってことか⁉︎」

「それに近しいね、だから私の体は既に心臓以外は人工物でできている。けれどその心臓も今は私の制作者の手の中だ」

「じゃあお前の命はそいつに握られてるってことか?大丈夫なのか、俺と接触して、バレたら殺されそうだけど」

「ある程度は大丈夫なはずだ。私の存在は奇跡に近いからね。今までにも同じ様なことが繰り返されていたらしいけど、成功例は私だけの様だ。よほどの脅威にならない限り、向こうは生きて連れ戻そうと思うだろうね」

「しかし、そんな開発して大丈夫なのか?踏み込んじゃいけない領域にどっぷり浸かってる気がするが…、国に見つかったら少なくとも死刑以上の罰が下るぞ。」


 今の日本でそんなことが行われているとは思わなかった少年は驚愕する。

 そして綺世は一番重要で必要なことについて触れる。


「その制作者ってのは?」


 『実験室』に風が吹き込み、少女の美しい金髪が揺れる。

 少女はその名を口にする。


「“特務課”科学顧問、与野原慶だ」


 それは彼にとって聞き馴染みのある名前だった。裏社会の人間ならば嫌でも耳に入ってくる。

 その答えを聞き、綺世は驚いた様に碧眼を見開く。

 魔術犯罪特務課は国家が創設した国家直属の組織である。当然、国の意思に反する動きはできない。

 つまり、


「…この国は…日本は…そんな国際法に抵触する様な開発を、容認しているって言うのか……⁉︎」

綺世は絶句する。

「そうだ。私の存在は間違いなく国際法に抵触するし、人類の禁忌すらも犯してしまっている。それだけこの国が腐っているってことだよ」


 驚愕の事実を知った少年は信じられないという表情を浮かべる。

 情報屋と共犯の関係にある彼がこのことを知らなかったということから、おそらく情報屋もこの情報を持っていなかったのだろう。それだけ日本にとって国民、そして世界に知られたくない、隠匿(いんとく)されるべき情報なのだ。

 少年は日本という国の闇の深さに言葉を失った。

 だが今はそんなことを考えても仕方がない。そう感じた少年は冷静になろうと、頭を落ち着かせようとする。すると、ふと彼の頭に当然とも言える一つの疑問が生じた。


「…なぜ情報屋も知らない様な情報をお前が持っている…?」

「……、」


 綺世はさらに続ける。


「俺の妹の情報もそうだ、情報屋に探してもらってはいるものの未だに何の手掛かりも見つけられなかったってのに、なぜお前が知っている⁉︎情報屋だって決して無能って訳ではねぇ。むしろ裏社会では名の通った奴だ。そんなのが見つけられなかった情報を何のパイプの無さそうなお前が持っているのはどうしてだ?」

「……さぁ?」


 少女は分からないという風にしらばくれる。

 だがその顔には怪しい笑みが浮かんでいた。

 綺世はさらに問う。


「…お前は一体何なんだ⁉︎」


 十四歳ほど少女が浮かべるその笑みは不自然で似つかわしくない。

 少女はゆったりと口を開き、


「名乗る名は無いが、研究所ではこう呼ばれていたな…」


 ゆったりした調子で言う。



「———“イシス“———魔術を司る女神の名だー」

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