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2024年10月13日午後7時5分北区

   0

 


 少女は求めていた。

 自身を解放してくれる者を。

 

 少女は求めていた。

 自身の復讐の共犯者となり得る者を。


 少女は求めていた。

 絶大な力の持ち主を。


 少女は求めていた。

 序列第七位、黒原綺世を。




   1




 細身のシルエットが屋根から屋根へと飛び移る。

 黒原綺世が夜の闇を切り裂くように走る。

 その速度は尋常ではない。

 重力の向きを操作することで、この速度を出しているのだろう。だが、普通に重力の向きを変えるだけだとここまでスムーズに走ることはできない。

 『魔術』のオンオフのタイミング、重力の強さ、向き。

 その全てが完璧に噛み合うことでここまでの速さを出すことができる。

 綾世の圧倒的な技量があってこそ為せることだ。


 目的地の国立魔術エネルギー研究施設は北区にある。

 先刻までいた渋谷区からは十数キロメートル離れているが、それをものともせず少年は風の如く疾走する。

 彼に疲れの色は全くない。

 小さく息を吐きながら彼は思案する。


(今回は"特務課“も絡んでくると情報屋が言ってたな。国立の施設だから当然か。そうなると少し厄介なことになるだろう。相手に『名持ち(ネームド)』がいなければいいが…)




   2




 同じ時刻、『名持ち(ネームド)』である逢坂響は"特務課“の上司で、茶髪と大きなガラス玉がついているピアスが特徴的な天童陸とともに行動していた。


「私たちは今から何をするんですか?」

「あン?そんなこともわかんないまま国立()魔術()エネ()ルギ()ー研()究施()設まで来たってのか?」


 天童は苛立っているのか乱暴な口調で言う。


「天下の九位様がこんなんでいいのかぁ?」

「聞かされてなかったもので」

「まぁいい、教えてやんよ」


 彼らは国立魔術エネルギー研究施設の廊下を歩きながら話していた。

 夜の研究所は声がよく響く。


「上層部によると、今からここに賊が来るらしい。そいつらはここの『実験室』を破壊しようとしてるんだと。んで俺らでそれを阻止する。」

「一体何のためにここを?」

「さぁな。自分で考えるんだな」


 建物の中に二つの足音が響く。

 電気はついておらず、数メートル先は懐中電灯を使わないとよく見えない。

 逢坂は質問する。


「ここには私たちだけですか?」

「んなわけねぇだろ。他にも五人がこの建物内を捜索してる」

「五人?多くないですか?」

 

 “特務課”は基本的にツーマンセルで行動する。三人以上で行動することはあまりない。

 だが敵勢力の行動を確実に阻止したい場合や、二人での対処が困難な場合に限り、例外として三人以上の隊員が派遣される。

 今回はその例外というやつなのだ。


「ああ。百戦錬磨の"特務課“が七人だ。上層部はここによっぽど壊されたくないものがあるらしい」

「……、」


 そこから数分間沈黙が続いた。

 二人は懐中電灯を持って敵の捜索を黙々と行っていた。

 彼らの間には気まずい空気が流れている。

 逢坂はこのままではまずいと思い、この空気を打破すべく、勇気を出して上司に話しかける。


「天童さんはなぜそんなに怖い顔をしてらっしゃるんですか?」

「あぁん?テメェぶっ殺されてぇのか?」


 一応これは逢坂なりの場の和ませ方、つまりはジョークなのだが、どうやら失言だったようだ。

 逢坂は天童のコンプレックスもとい逆鱗に触れてしまった。

 逢坂の行動が裏目に出てしまい、先程よりも空気が悪くなってしまう。

 そして再び沈黙の時間が始まる。




   3




 逢坂と天童が一悶着していた頃、


『バンッ!バンッ!』


 国立魔術エネルギー研究施設の『実験室』では"特務課“が既に戦闘を始めていた。

 だが、その相手は黒原綺世では無い。

 長く、美しい金髪を靡かせる、十四歳程度の少女だ。

 金髪の少女は拳銃の引き金を引いた。

 大きな機械と兵器が並んでいる『実験室』に乾いた銃声が鳴り響く。

 何故この少女が"特務課“と戦っているかというと、数分前、彼女はある目的があり『実験室』にいたところ"特務課“五人と邂逅(かいこう)した。その瞬間、一切の躊躇(ちゅうちょ)なく発砲したのだ。

 そうして今に至る。

 少女一人に、百戦錬磨の"特務課“が五人。端から見れば、圧倒的に少女の方が不利な状況だ。

 しかし、少女の口には余裕が感じられる笑みがあり、それと対照的に、"特務課“には切迫した雰囲気が漂っている。そのことが今の戦況を物語っているだろう。

 それもそのはず。

 先程の銃声の際、少女の拳銃から放たれた弾丸が"特務課“の一人の腹部を穿ったのだ。撃たれた彼は血を出しながら、地に伏している。


「何をする⁉︎貴様は何者だ⁉︎ここで何をしている⁉︎」


 “特務課“の一人が声を荒げて問う。


「おいおい、一気に質問をするなよ。何から答えていいのか分からないだろう?」


 少女が返事をする。

 薄く笑いながら出されたその声色は余裕に満ち溢れていた。

 彼女は拳銃の弾を補充する。その流れるような作業はおおよそ普通の中学生では出来ないだろう。


「このクソガキが!舐めやがって…!お前ら行くぞ!」


 1人が激昂して、少女に罵声を浴びせる。

 そして仲間に号令をかけた。

 その声を合図に"特務課“の三人がそれぞれ構える。どうやら魔術を使おうとしているのだろう。

 しかし、


「何だ? 魔術が使えない……、」

「こっちもだ」

「お前らもか、俺も魔力が流れねぇ。これが奴の魔術か⁉︎」


 すると彼らの後ろにいた“特務課”の一人がなにやら小型の計測機のようなものを片手に声を上げた。


「”情報庫(ライブラリ)“で奴の魔力反応を照合...検索結果......該当無し!?」


 それを聞き一人の男が不機嫌な様子で、


「見た目的に外国籍だろうが。クソッタレのアメリカの飼い犬かぁ?あいつら、どこまで俺らを愚弄すれば気が済むんだ」


 そう吐き捨て、再び少女を睨む。

 それまで静観していた少女だが、彼らの会話を聞き、嘲笑うかのように口を開いた。


「作戦会議って聞こえないようにするものだろう?これだと君たちの考えが丸わかりだよ。…あと」


 少女は含みを持たせる。そして笑いながら尋ねる。


「遺言はそんなものでいいのかい?」


 直後、少女は"特務課”に銃口を向け、三回続けて発砲する。

 その弾丸は全て無慈悲にも、彼ら三人の眉間を正確無比に貫いていた。彼らは声も出さずにその場で倒れ、辺りに血の海が広がる。

 少女は小さな溜息をついた。

 そして呟く。


「"特務課“といっても魔術が無くなればただの一般人か…。まあ魔術戦闘のエキスパートだから、普通の銃撃戦に慣れていないのは仕方がない。ともかく、無効化の魔術に異常がないことを確認できてよかった」



 "特務課“の残った一人が物陰に逃げ込む。


(やばいやばい!あんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ!俺の役割は後方支援だから逃げることはできたけど、俺以外全員死んだぞ‼︎どうする⁉︎とりあえず天童さんに連絡しよう!)


 彼は携帯を開き、天童陸へ電話をかける。

 発信音がとてつもない長さに感じた。

 そして繋がったことを確認すると、急いで状況を説明する。

 その声は震えて、掠れている。

 彼は今、恐怖と焦りで周りが見えていない。そのため金髪の少女がすぐ後ろにいることも、銃口を向けられていることさえも気がつかない。

 拳銃がカチャリと音を鳴らす。

 彼は振り返る。そして少女と自分に向けられた拳銃を認識する。


『バンッ!バンッ!』


 その瞬間、少女は男の足と携帯を撃った。

 彼の苦しそうな悲鳴が『実験室』内に木霊する。

 携帯は真ん中に銃弾が刺さり、地面に転がり落ちる。

 少女が彼を一発で殺さなかったのは、情報を聞き出すために違いない。また、一度足を撃つことによって相手の心に恐怖心を植え付け、命令に従いやすくしようという狙いもあるのだろう。

 少女は男に脅しを交えながら問う。


「ここには何をしに来たんだい?答えなかったら次は左足だよ」

「こっ、ここを誰かに破壊されるから、そっ、それをさせるなって命令された…」

「その誰かってのは『黒星』のことかな?」

「いや、第七位の名前は出てなかった…と思う…」

「…そうか。協力感謝するよ」


 そう言い、少女は彼の脳天めがけ弾丸を放った。




   4




 逢坂と天童の沈黙の時間はそう長くは続かなかった。


『バンッ!バンッ!』


 沈黙を破るように何処かから銃声がなる。


「今のは⁉︎」

「銃声だ。戦闘が始まった様だな」


 そして再び、二発三発と銃声が鳴った。

 それと連動する様に天童のポケットが振動する。

 天童は携帯電話を手に取り、耳元に持っていった。


「あン?どうした、何があった?」

『天童さん、大変です! 敵が現れました』

「ああ、銃声が聞こえた」

 

 電話からは緊迫した声が聞こえてくる。

 電話の主は掠れた声で天童に自分たちの状況を説明する。


『敵を発見し戦闘を開始しましたが、既に四人が戦闘不能になってしまいました』

「何だと⁉︎場所はどこだ⁉︎」

『三階にある『実験室』です‼︎奴の魔力反応を“情報庫(ライブラリ)”で検索しましたが、該当するものはいませんでした。ですが恐らく敵の魔術は能力の無効化です‼︎気をつけてく、ってぐぁあああぁぁ!!!』

「おい! どうした⁉︎何があった⁉︎ 返事をしろ‼︎」


 悲鳴とともに電話が切れる。

 天童は焦った様子で、逢坂に指示を出す。


「おい九位、俺らもいくぞ‼︎」

「待ってください!何があったんですか⁉︎」


 天童は、状況が飲み込めていない逢坂に舌打ちをした。

 そして走りながら説明を始める。


「どうやら、賊はかなりの強者らしいな。五人がやられた」

「本当ですか⁉︎」

「ああ。奴は三階の『実験室』にいるらしい。魔術は能力の無効化。勝手な行動してポックリ逝くなよ」




   5




 黒原綺世は国立魔術エネルギー研究施設に現着した。

 辺りには同じような研究所が多くある。

 しかし夜は施設を使わないのだろう、街灯は見当たらず、光源は月しかない。


 少年は重力を操作し、五階建ての研究所の屋上へ飛び乗った。


(ここの三階の『実験室』でミサイルが作られてるって言ってたな。外見を見る限りそんな風には思えないが、まぁ『仕事』だから仕方がない。"特務課“がいるらしいし警戒しつつ行こう)


 綺世は辺りを確認し、屋上の扉を開く。鍵は掛かっておらず、簡単に侵入することが出来た。

 建物の中は暗い。

 少年の黒髪は闇と同化し、彼の碧い瞳がより際立つ。

 彼は三階に向かって歩みを進める。

 彼の表情には緊張も恐怖もなく、程よく脱力している。

 このような状況には慣れているのだろう。

 階段を一段一段下っていき、四階と書かれたプレートが少年の碧眼に映った。そして、その下にある研究所内の地図を見て、『実験室』の位置を確認する。

 『実験室』は他の部屋と比べると大分広く、フロアの八割程の面積であった。また窓もなく、外から様子が見えないような位置に配置されていて、ミサイルの製造が外部に漏れないようになっていた。


 そんなことを確認した後、再び歩き始めようと足を一歩前に出す。

 すると足元で何か薄いものを踏んだ感触を感じ、それとともにガサッと音がした。

 綺世は歩みを止めて、目を細める。

 彼の足元には数枚の書類が散乱していた。彼は書類をまとめて拾い上げ、内容を確認する。


「これは……、」


 すると突然、


『バンッ!バンッ!』


 銃声が下の階から聞こえてきた。

 続けざまに何発もの発砲音が耳に入ってくる。

 綺世は動じることなく、先程拾った書類を折り曲げ上着のポケットに入れた。

 おそらく声が聞こえたのは『実験室』だろうと推測する。


『ぐぁあああぁぁ‼︎』


 今度は絶叫が響く。

 少年は考える。


("特務課“が仲間割れでもしたのか?それとも俺以外に侵入してきた奴がいて、そいつが"特務課“に襲われたとか。考えにくいがその逆の可能性もある。何にせよ自分の目で確かめたほうがいいな)


 少年は研究室に向かって走り出す。




   6




 天童陸はその瞬間を見ていた。

 仲間の一人が金髪の少女によって撃たれる瞬間を。

 周りには他の仲間の遺体が転がっている。


「テメェェェェ!!!!俺の仲間に何してくれてんだァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ!!!!」


 天童は激昂する。

 一帯がその大声で震えて、天井からパラパラと埃が落ちてくる。

 少女は彼の方を振り返り、不敵に笑う。


 天童は見た目と性格のせいで誤解されることが多いが、実のところとても仲間想いなのだ。

 だからこそ仲間たちが倒れている今の状況が許せない。

 自分がもっと早く気が付いていれば、もっと早く駆けつけられていたら、彼らはこんなことにならずに済んだのではないか。

 そんな思考が彼の脳内で渦巻く。


 そして彼はその怒りをぶつけるべく金髪の少女に向かって駆け出す。

 彼の拳は手から血が出るほどに強く握られていた。

 向かって来る天童に対し少女は照準を顔に合わせ発砲する。

 しかし、天童は頭を少し横にずらし、必要最低限の動きのみで銃弾を躱してみせた。

 その事実を受け少女は冷静に頭を回転させる。


(この距離から銃弾を認識し避けるのは、とんだ怪物でないと不可能だろう。そうなると躱せたのは彼の『魔術』の恩恵か。ならばそれを封じてしまえばこちらのものだ)


 そう考え、少女は自身の魔術を発動させる。だが、


(何だ?なぜ止まらない⁉︎魔術を無効化されたというのにそれでも尚、向かって来るというのか⁉︎)


 天童は止まらない。

 魔術を封じられても尚。

 なぜなら、彼の魔術は手の先から微弱な光を出すといった能力だから。彼の魔術は戦闘には全く活かせない。

 ではなぜ彼は実力が絶対の“特務課”に入ることが出来たのだろう。

 それは天童が圧倒的な身体能力を有していたからだ。彼は魔術が使えなくとも、魔術を操る強者たちと渡り合える。


つまり天童陸は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だから無効化の魔術が効かない。いや、実際には効いているが天童には何ら影響はないといった方が正しいだろう。

 天童の拳は金髪の少女の目前までに迫っていた。

 魔術を使ってこないことは想定外だったのか、少女は完全に虚をつかれる形となった。


「天童さん‼︎」


 逢坂は思わず彼の名前を叫ぶ。

 天童は失った仲間の想い、意志を拳に託し、思い切り振り下ろす。

 それは決着の一撃になるかに思われた。…しかし、


 フッ‼︎という音とともに天童陸の拳は空を切る。


 その瞬間、天童は何が起こったか理解できなかった。

 あの状況からは拳はどうやっても避けられなかっただろう。

 だが天童の拳は当たっていない。

 一体何が起こったのか。


「すごいね。ここまで追い詰められるとは想定外だったよ。」


 天童の背後から声が聞こえて来る。

 それは心底驚いたような声だった。


「こんな序盤に空間転移を使う羽目になるとはね。まだテストをしてなかったから、動作不良が起きていたら危なかったよ」

「空間転移だと⁉︎お前の魔術は能力の無効化じゃねぇのか⁉︎」


 ”『魔術』は一つしか持つことができない“というのが世間一般の常識だ。少女が無効化だけでなく空間転移も使えるのならば、その常識は覆ってしまう。

 天童の叫びに少女は答える。


「そうだ。魔術の無効化も使える」

「ふざけんな!!魔術が二つなんて人間じゃあり得ないって話だろッ!!!!」


 その言葉を聞き、少女はうっすらとした笑みを浮かべる。

 そして小さく言う。



「その通りだ。()()()()()()()()()


「…は?」


 予想外の返答に一瞬、天童の思考に空白が生まれる。

 そして少女はうっすらと笑ったまま、ゆっくりと言った。


「理解できたようだね。君の想像の通りだよ」

「…何があった」

「それに答える義理は無いね」


 少女は一呼吸開け、再び口を開く。


「そんなことより、今は戦いの中だよ?」


 刹那、金髪の少女は拳銃を構え、引き金を引いた。

 実験室に再び銃声が鳴る。

 天童は体を回し、銃弾を避けようと試る。

 しかし、突然の攻撃に反応が一瞬遅れたため銃弾は脇腹付近に刺さる。この至近距離で急所を外させ、即死を免れたのはやはり彼の身体能力のおかげだろう。

 だが、深手を負った事には変わりない。

 彼の服に鮮やかな朱殷(しゅあん)が滲み出る。

 天童は苦しそう唸り、脇腹をおさえた。

 そして少女を睨む。

 少女はカチャリという音とともに天童の眉間に黒光を帯びた銃口が向けた。


『ズドンッッ!』


 それは銃声とは似ても似つかない音だった。

 少女は引き金を引いていない。

 では何の音なのだろうか。

 少女は音の聞こえてきた自分の足元に視線を落とす。

 そこには、腕一本分程の大きさの氷の槍が床に突き刺さっていた。

 氷槍の先端は極めて鋭利で、研究所の鉄の床を破壊するほどの威力も持っている。直撃していれば少女は確実に死んでいた。

 直撃を免れたのは、十四歳程の少女を殺める事を躊躇したためだろう。

 この場でこの様な芸当ができるのはただ一人。

 氷槍が飛んできた方向には『氷姫』逢坂響が立っていた。

 逢坂は両手を少女の方に(かざ)す。

 するとパキパキパキッ‼︎と音をたてながら、再び三つ氷槍が現れる。

 そして噴射した。

 それは銃弾に等しい速度を有する。

 少女はそれを認識するや否や、普通に躱すことを諦め空間転移を発動させる。


『ズドンッッドンッ!!!!』


 轟音が響く。

 氷槍は、少女の背後にあったミサイルを製造していたであろう機械を木っ端微塵に粉砕した。


「天童さん‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」


 少女が天童から離れた事を見ると逢坂はすぐさま彼のの元へ駆けつけ、問いかけた。

 しかし返事はない。

 息はある様だが、まだ血が流れ出している。


(まずい。天童さんの血が全然止まらない。今の状況をどうにかして救急班に引き渡さないと。そのためにまずはあの娘を抑えよう)


 少女は逢坂の魔術の威力を目の当たりにして驚いた表情をした。

 そして感心するように呟く。


「君の魔術すごいね。威力、物量、コントロール性。どれをとっても素晴らしい。もしかして君があの『氷姫』なのかな?『名持ち(ネームド)』と戦えるなんて光栄だね」

「私が何者かなんてどうでもいい。そんなことよりもあなたは何の目的があってここにいるのかしら?ただ人を殺したいってわけでは無いんでしょ?」


 逢坂は少女の軽口の相手をしない。

 逢坂は尋ねる。

 こんな中学生程度の少女がなぜこんなことをしているのか。

 その真意を知りたかったからだ。


「そうだね。私には目的がある。だけどそれを言うわけにはいかない。君はここで倒しておくよ。たとえ『名持ち(ネームド)』であったとしても魔術を無効化してしまえば、なんてこと無い。さっきの彼は例外として、君たち“特務課”は魔術に依存しきってしまっているからね」


 金髪の少女の目から逢坂へと不気味な光が放たれる。

 恐らく無効化の魔術を行使したのだろう。


「君には銃弾を避けられるほどの運動能力は無いだろう。…これで終いだ」


 逢坂は氷の壁を作ろうと試る。

 だが案の定、魔術が発動せず、壁が現れない。


(撃たれる!どうする?逃げる?いやでも空間転移ですぐ追いつかれちゃうか。何か他に活路は…このままじゃ…死ぬ……)


 金髪の少女は引き金に指をかけた。

 死が目前まで迫ってくる。


 逢坂響は目を強く瞑る。

 逢坂響は手を強く握る。

 命を落とす覚悟をして。


 …しかし、銃声はいつまで経っても聞こえてこなかった。


「やっと来たか。待っていたよ」


 それどころか、誰に向けられたかもわからない声が聞こえてくる。

 逢坂はゆっくりと瞼を開く。


 

 そこに立っていたのは、黒髪の少年だった。

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