7話 廃れた町で姉弟と出逢った~姉視点あり~
部屋から出て行った少年はそれほど時間をかけずに戻ってきた。
少年と同じように汚れた格好の少女を連れて。少年が小学5、6年くらいで少女は高校生くらいか。
少女は少年と違い警戒した目を向けてくる。うん、それが普通だよね。
俺がさっきと同じように水の玉を浮かべるが少女は中々飲まない。
少年のときと同じく水を飲む少女の絵を見せたけどやっぱ警戒してる。そりゃ怖いよね、宙に浮く魔本が出す水なんて。
そんな姉を安心させようと少年が水を飲む。慌てて止める少女だが、笑顔で「美味しいよ!」と言う少年に負け水を飲んだ。
喉が渇いてたのかすごい勢いで飲むな。
…何か可哀想になってきた。まだ子供でたった二人でこんな廃村…町の場合はなんて言うんだ?廃市や廃都は聞いたことあるけど廃町って何で聞かないんだ?
まぁそこに住んでるのかと思うとね。
痩せてるし汚れてるし今にも倒れそうな二人だけど、その笑顔が見れただけでも嬉しいわ。
俺は部屋を出て勝手に部屋を検分する。
執務室を出ると廊下がありすぐにダイニングキッチンがある。あちこちひび割れてたり壁が崩れてる所もあるが穴が開いてないだけマシなのかな。
二人は不思議そうに俺の後に付いてくる。
それに構わずキッチンに行き置いてある桶に水を入れる。汚いかも知れないので聖魔法の浄化を混ぜた水を念力で洗濯機みたいに回転させ一回捨ててまた溜めて。
うん、やっぱMP沢山あるとめっちゃ楽! やっぱ俺魔法使い系だわ。ゴーレムが色々辛かった。特に歩き!
そうして比較的綺麗そうな桶3つに水をいっぱい溜めると二人は喜んでいた。うんうん、いいことしたな!
それじゃ俺は食料獲ってくるよ!
二人にページをペラペラ捲り挨拶し、町から出る。
二人は寂しそうな顔をしていたがまた戻ってくるから! 伝える術がないのは不便だな。
絵で伝えられるってのもどんな絵を描けばいいか分からんし。こういったとこもコミュニケーション能力高いと思い付くんだろうな。俺には無理だ。アドリブ苦手だし。
町中を飛びながら見ているがやはり寂れた町で、人っ子一人いない。
二人に会わなければ誰も住んでないと思っただろう。
なんでこんな所に子供二人で住んでるんだろう…言葉が話せれば聞けるのにもどかしい。
町の外近くに行くと1mほどの高さの外壁に囲まれていた。その一部や門が壊れている所があった。魔物の襲撃で滅んだのだろうか…
だがそれにしては町は大きく破壊されていないしこうも魔物がいないものなのだろうか?
肉食の魔物なら人間を食べたら食べるものがなくなり去って行くだろうが、ここに住み着くものがいても不思議じゃない。
人間が侵攻してきたのだろうか?
町の外は砂漠が広がっている。食料どころか水すら中々なさそうな場所だ。
魔物ならここに住み着いてもおかしくないと思うが…
そんなことを考えていると何かの気配を感じた。見ると何かが民家で身動きしている。
気配察知を発動し調べる。…人間じゃないな。ネズミのような豚のような生物だ。灰色の毛で覆われ大型犬ほどの大きさで耳は大きく丸いが鼻は豚のよう。異世界の魔物を地球の生物で例えるのも難しいな。似たモンスターとかいればいいのにワイバーンとか巨人みたいに。
風斬を飛ばしその首を斬り落とす。『キルポイント獲得16』と無機質な声が聞こえた。
かなり弱い魔物なようだ。
これは食べられるのだろうか? 分からんがとりあえず聖魔法で浄化しておこう。
そうして念力で持ち上げ運ぶ。
光合成のお陰でMPが減って回復減って回復とほぼマックスだ。ほんと、太陽の下でなら俺無限に魔法が使えるな。満月の夜のときも6割回復だったけど、あのときはゴーレムだったから元々のMP低かったし。
そんなことを考えていたらすぐ家に着いた。
扉をコンコンとノックすると身を潜める気配。いや、俺なんだけど声かけれないしどうしよ(^_^;)
勝手に扉開けようとしたんだけどちゃんと閉まってるな。
仕方なく窓からお邪魔します。
お土産を床に置いてダイニングキッチンに行くと、少女が机の下に隠れていた。少年の姿は見えない。
俺はそっと近付き机の下に顔を出すと、少女はビックリして机に頭をぶつけた。驚かして申し訳ない。
痛がる少女に回復をかけると少女は驚いて俺を見た。俺友好的な魔本ですよっと。
少女が「ライト!」と言うと少年が台所の戸棚から出てきた。やはり隠れていたのか、驚かしてすまんね。
俺が執務室に行き魔物を見せると二人は驚いている。
魔物を焼いて食べる絵を見せ食べれるか聞こうとしたんだけど、「え? これ食べれるの?」と逆に聞かれ困ってしまった。
くっそー鑑定とか持ってれば分かったのに!
■■~少女視点~■■
私達の住む村に砂漠の王国の奴らが攻めてきた。
ここは砂漠の端の方に隠れるようにある村だ。いや、実際隠れていたんだろう。
この町に住むのは訳ありばかり。迫害される者や珍しい種族故に奴隷にされる者、犯罪者。「俺の親が犯罪をやってね、両親は死罪か犯罪奴隷か…まだ子供だった俺は流刑にされて町から押い出されたんだよ」とお父さんは笑っていたっけ。
「そのお陰でこの町で母さんに出会えたんだから、人生って分からないものだよ」って。
何の能力も持たない純人だから迫害されていたお母さんと、妖精人のお父さんとの間に生まれたのが私達。
ハーフだからお父さんみたいに凄い魔法を使えたりしないし、生活魔法を使うくらいのMPしかないけど幸せだった。
お母さんは「私が純人だからあなた達は大した魔力を持たずに生まれてしまった。本当なら父さんみたいに沢山の魔法を使えたはずなのに」なんて自分をよく責めていたっけ。
でもそんなの全然気にならなかった。
「私は顔だけしか取り柄がないから」なんて言う通りお母さんはとんでもない美人だ! 白金の髪に透けるような肌に水色の瞳をした儚げな美女。だからこそ沢山苦労したんだろうけど。
お父さんも妖精人らしい美人だ。水属性が強いお父さんはその特徴の青い髪に真っ白な肌、紫の瞳で中性的な体をしてるから男性から襲われそうになったことは何度もあるんだって。その度に魔法で追っ払ってやったんだって自慢してた。
ちょっとお父さんは妖精人らしい勝ち気で高いプライドがあるけど、後ろ向きなお母さんとは相性が良い。娘の私が呆れるほどラブラブだった。
褐色の肌が多いこの辺りでは私達家族はみんな目立ったけれど、この村から出ないから関係なかった。
隠れ村のここは他の町との交流は最低限で年に2~5回、数人で行き来するだけ。
なるべく目立たないようひっそりと暮らしてた。
──けれど、
その数人が帰って来ないと騒ぎになったのは3週間ほど前かな?
捕まったのかも知れないと危険ししていた大人は正しかったのだろう。こうして攻めて来たのだから。
村の戦える者は出て行った。お父さんとお母さんも。
私達は地下の小さな部屋に隠れているよう言われて中に入った。
私と弟と備蓄している食料。それだけでいっぱいな小さな倉庫のような場所に隠れて。
悲鳴や怒声、剣をぶつけ合うような音や何かを壊す音。色んな音が聞こえて怖くてずっと耳をふさいで弟と抱き合っていた。
──騒ぎが収まってもずっと隠れていた。どれだけ時間が経ったのか分からないが多分次の日。
外に出ると誰もいなかった。私達以外誰も。
所々争った形跡はあるのに血痕もあるのに死体がない。それがどうしてなのか最初は分からなかった。
弟と共に村中を見回っていたとき、広場に大量の血痕と肉片が落ちているのを見付けた。
多分、死人を集めて騎従の餌にしたのだろう。人を乗せて走るあの魔物は肉食だから餌代がかかると聞いたことがある。死体や廃棄奴隷を食べさせたりするって。
その中にお父さんお母さんがいるのか、近所の人達や友達がいるのか…肉片や服の端切れからは分からなかった。
それから弟と二人だけの生活が始まった。
食料は沢山ある。そんなに食料のある村ではなかったけど村中の備蓄を集めたから。
問題は水だ。
広場にある井戸には沢山の血が混じっているだろうから、正直飲み水にはしたくない。
生活水には仕方なく使うけど、飲み水は私が出す水魔法だけで何とかしよう。あまりMPがないから大した量は出せないけど。
そんな子供だけの生活は1月もすればもうギリギリになっていた。
MPがない私では水の量が足りないし弟はまだ一切魔法が使えない。一時だけ少し降った雨で広場は綺麗になったが最近は井戸も枯れてきた。
元々水の少ない土地で、お父さん達みたいな魔法使いの出す水や魔物の血で補ってたから。
ひび割れた弟の唇やカサカサな肌を見て思う。私達はもう死ぬのかも知れない。
そんなとき、あの不思議な本に出会った。
「お水がいっぱい飲めるんだよ!」
ついに幻覚でも見ているのか、おかしなことを言い始めた弟に不安を感じつつ付いて行くと、宙に浮く本がいた。
なぜ本が浮いてるのか混乱するまま凝視していると更に水の玉が宙に浮いた。
私の頭もおかしくなったのかと不安になる。
しかもライトがそれを飲もうとしたからビックリした。「美味しいよ」と笑顔で言われたことで喉の渇きを思い出し、我慢できず飲んだ。
本当に美味しい。しかも何だか体が軽くなった気がする。
宙に浮く本はもう一度水を出してくれたのでそれも飲み「ありがとう、もうお腹いっぱい」と伝えると心なしか嬉しそうに見える。やっぱり私もおかしくなったかな。
もう私達二人はだめかもしれない。
その後本は桶3つに水を入れ去って行った。
それを見る弟は寂しそうでそんな顔を見るとちょっと辛い。こんな生活になってからようやくライトの笑顔が見れたのに。
あの本にも自分の生活があるから仕方ないって思うけど、でももう少しいてくれてもいいのになんて思ってしまった。
私達とあの本は他人でしかないのに。
あの本が作ってくれた水はいつまで待っても消えない。信じられないけどこれは現実だったのだ。
あの本に感謝して桶の水を畑に撒く。
水が減ってからほったらかしにしてたから殆ど枯れている植物に水をやるなんて無駄かもしれない。でも元気になってくれればいいな。
もう食料がない私達にはこれだけが生命線だから。
いつにも増して元気のない弟を励ましつつ家に籠っているとコンコンと扉がノックされた。
こんな廃村に訪ねて来る人間なんていない! 慌ててライトを戸棚に隠す。
ここは私達の家じゃない、畑があって他の家より比較的綺麗だから移り住んだだけだ。
もっとちゃんと隠れられる家に住むべきだったなんて後悔しても遅い。
椅子を盾にして気付かれにくくなるよう机の下に隠れた。
しかし、目の前に現れた本に驚く。驚きすぎて頭を机にぶつけてしまったがあの本が魔法をかけてくれたら痛みが一瞬で消えた。
この本は一体何なんだろう? 回復は貴重で村で使えるのも神官のお爺さんとエルフの男性しかいなかったのに。
その後本に案内され本が現れた部屋に行くと魔物の死体が転がっている。
本がそれを焼いている笑顔の私達を見せてきたので、食べれるのか聞くと固まってしまった。
「食べれるか聞いてきたの? ボクたちに」そうライトが聞くと大きく上下に揺れる。頷いてるのか、多分。
「えっと、食べれるか分からない。その魔物見たことなくて」
私の言葉を聞くと本はどう見てもしょんぼりしてしまった。
せっかく獲ってきてくれたんだし調理してみよう。
「とりあえずちょっと食べてみよう」そう言ってライトと包丁とナタで解体する。
見たかぎり普通に食べられそうに見えるが、村のみんなが捕まえないから珍しい魔物なのか、不味いかだけど…
多分、肉から漂ってくる匂いが臭いから不味い方だと思う。臭い肉は味も不味いと父さんから聞いたことあるし。
本が火を起こしてくれたのでさっと炒めてみる。調味料なら結構あるからそれで誤魔化すしかないかな?
できたお肉をまずは私が食べてみる。……やはり臭みが強い。
「美味しくはない。でも、食べられる」
「うん……美味しくはないね」
弟と二人微妙な顔で食べていたらしょんぼりした本に気付いた。
せっかく私達の為に持ってきてくれたのにこんな態度じゃ失礼だ。慌ててお礼を言う。
「ありがとう本! もう食料も尽きて水もなくて、調味料だけでどう生きてけばいいのかと思ってたから助かったよ」
「うん! ありがとう空飛ぶ不思議な本!」
本は嬉しそうに上下に動いている。
本当に不思議な生物だ。本なんだから生き物じゃないだろうに私達の言葉を理解し喜ぶ感情がある。
そう見せているだけの可能性もあるけど、そんなことをわざわざする理由が分からない。
本当に不思議な本だ。
食事が終わり、久しぶりに腹が満たされてうとうとしていると本が慌てて窓から飛び出て行った。
それを追って外に出ると驚愕に目を見開いた。
町の広場に現れたのはこの家よりも大きなワイバーンだった。
こんなものに見付かったら即座に殺される!
しかし本は何も分かっていないのかワイバーンの前で上下に動き回っている。
あんなことしてたら殺されるだろうに…そう思っても助けに行くなんてできるわけがない。
だって、私は怖くて一歩も動くことができないのだから。




