風向き変わったな
というわけで揚げ終わりました。
「鼻にツンとくる酸味がたまりませんわ~」
ハイそこ! リリウムさん!!
待ちきれないからって胸一杯に油淋鶏の匂いを嗅がない!!
みんな真似するでしょ!
「これで完成か」
「まぁ、完成ですけど……ここからさらに追加することも可能です」
ラベンドラさんに聞かれ、少しだけ物体ぶって……。
デン! とタルタルソースをテーブルへ。
酸味のあるタレ、揚げたトリニチカシイオニク、タルタルソース……。
つまり、ほぼチキン南蛮ってことよ。
「な、それは……」
「まぁまずは乗っけずに食べてみてください」
タルタルソース見てたじろぐ人初めて見た……。
それはそうとして食べましょう。
「いただきます」
手を合わせて言うと、みんなも真似していただきます。
さてさて、揚がり具合はどんな感じぞ~?
ザクッ! ……とは言わないんだなこれが。
肉はある程度薄くしてるけど、二度揚げとかしてないし。
タレもしっかり吸ってるしね。
音で言うならシャクッ! とか、ジュクッ! みたいな感じ。
それはそれとしてめっちゃ美味――、
「むふっ!! やっぱり思った通りの美味しさですわ!!」
「肉の弾力と衣の食感、そこからのタレの風味が絶品じゃな!!」
「肉が薄くて物足りないかと思ったが、しっかりとした弾力で噛み応えがある」
「極めつけは酸味の強いソースだ。鋭い味が肉のうま味や衣の油っぽさを縫って舌に届く」
あーはい。
おっしゃる通り美味しいです、はい。
肉を薄くし過ぎたかと思ったけど、いざ揚げてみるとそんな事はなく。
衣を割って肉に到達した瞬間は、歯を受け止めるんだよね。
ただ、受け止めるのは一瞬で、そこから諦めたように歯の侵入を許し。
肉の半分くらいでまた抵抗が強くなって、力を入れるとシャッキリ切れる。
で、歯の侵入に応じて肉汁を染み出させ、切れた後にはもう洪水。
そこにタレの酸味や刻んだ野菜たちの風味が混ざり合い油っぽさを打ち消してくれる。
米が進むわぁ……。
「どれ、タルタルソースを試してみるか」
「早くしろ、後がつかえている」
「一人で使い切るなよ?」
「急いでくださいませ」
四人によるタルタル争奪競争、第一コーナーを制したのはガブロ選手。
誰よりも先にタルタルを油淋鶏へとかけていきます。
「おっふぉ!! また違った味わいになるのぅ!!」
一口食べて、この反応は大層気に入った様子ですね?
まぁタルタルが不味いわけ無いんだから。
「うま味とうま味が合わさり最強に見える……」
なんか黄金の鉄の塊で出来たナイトみのある感想を残したマジャリスさん。
今のがリアルで良かったな。夢だったら今頃飛び起きてるぞ?
「さっきとは一転してどっしりとした味わいになる」
一方冷静に味の分析をするラベンドラさん。
そういや、異世界ものだとマヨネーズで無双みたいなのがちょくちょくあるみたいだけどどうです?
そっちの世界では天下取れそうですか?
「はぁ~……美味しいですわぁ……」
で、リリウムさんはため息までつきながらうっとりしてらっしゃいまして。
堕ちたな(確信)。
「む、付け合わせのポテトサラダが美味い」
「ソースをちょっと吸った部分が最高だ」
「……この組み合わせもまた――」
「はぁ~……美味しいですわぁ~」
そして皆さん、私がなぜポテトサラダを付け合わせにしたのか、お気付きになられましたか。
油淋鶏のソースや肉から出た脂をポテサラがいい具合に吸い込むんだよね。
で、その部分のポテサラは戦闘力が跳ねあがる。
多分、53万くらいになってるはず。
「ふむ……これならば再現は容易だな」
「本当か!?」
「やりましたわ!!」
「でかした!!」
で、ポテサラをゆっくりと食べていたラベンドラさんが呟いた瞬間にこれ。
まぁ、ポテサラだし、再現は出来るだろうけど……。
それにしてもこの喜びよう、何と言うか、凄いな。
「念の為の確認なんだが、ポテトサラダにはマヨネーズが使われているな?」
「あ、はい。使われてますね」
なお皿の上のポテサラはスーパーの総菜コーナーの物である。
好きなんだよなぁ、総菜コーナーのポテサラ。
自分で作る時とは全然違う味で。
俺が作ると薄切りの玉ねぎとか入れないし。
ごろごろと入ってる茹で卵も美味しいよね。
「となるとネックは胡椒だが……これはまぁどうにでもなる」
なんて考えて脳内でポテサラのレシピを汲んでる所悪いんですけど、ラベンドラさん?
ものすごい勢いでタルタルソースが減っていってますよ?
主に三人のせいで。
「……。 ん? あ、おい! 私の分も残しておけ!!」
あ、気付いた。
んで、タルタル戦争にラベンドラ、参戦!
いやぁ、賑やかで美味しいですわねぇ。
間違えた、楽しいですねぇ。
ま、冷蔵庫にはこんな事もあろうかともう二本タルタルソースがあるわけですけど。
「それにしても、同じ揚げ物でもここまで種類があるんだな」
「昨日のバーガーに挟んであった奴も、これや唐揚げとはまた違った感じじゃったぞい」
「料理というのは奥が深いのだな……」
「カケルの作る料理が異質すぎるだけだ。まぁ、料理が奥深いというのには同意するが」
みんな最後の一切れになったらしく、名残惜しそうに箸で持ち上げて眺めてたよ。
……言えねぇ。揚げさえすればおかわりがあるって。
言うと全員が殺到する未来しか見えんし。
「カケル、お代わりなのだが……」
「はい」
あ……ラベンドラさんなら作ってる横で見てたし、お代わり出来るの察したか?
しまったな……。
「もし可能なら、私に調理させてもらえないだろうか?」
「……へ?」
人間、予想外の事を言われると、間抜けな声が出てしまうものである。
とはいえラベンドラさんが調理か。
確かに考えた事無かったけど、別に任せて大丈夫そうだし……。
「あ、じゃあ俺が脇に立って道具とかの使い方教えるんで……」
流石にガスコンロ初めての人に全部任せられんし、今回は立場を変えて俺が見守る役割になろう。
というわけで、いつもとは逆のラベンドラさんの調理が始まるのだった。




