お主も悪よのぅ
「すっごい美味い」
「自慢の茶葉」
アメノサさんが胸張ってフフン、みたいな感じで得意気である。
なお、その胸は張っても主張しない模様。
触れない優しさも時には大事。
「黄金糖か。よく手に入ったな」
「大会の一番いい場所に各国の調合ギルドをねじ込んだら涙ながらに渡された」
「あぁ……」
どういうことか分からないけど、多分袖の下だよね?
あるいは山吹色のお菓子。
ちなみに黄金糖とか言われたけど、そこまで甘くはない。
何だろうな、梨とか、リンゴとか、秋の果実を思わせる風味と、スッと消えてく甘さ。
サッパリしつつもしっかりと甘さを感じる味わいで、紅茶の香りも結構気高い。
さっき言った、リンゴとか梨の香りを押さえつけて主張し、紅茶の香りが薄れたら、それらが出てくるって印象かな。
で、フレーバーティーみたく、後から足された感が一切ない。
ごく自然にその香りになってる辺り、最初っからこの香りなんだなぁと実感できる。
「かぼちゃのタルトとまた合いますわね」
「かぼちゃの香りは紅茶の邪魔をせず、紅茶の甘みはタルトの邪魔をしない。互いにいい部分は譲り合うように、互いに寄り添う組み合わせだな」
「タルト生地が香ばしく、バターの香りが立ってるのもいい。こういうタルト生地は何だって合う」
「余計な感想はいらんよ。ただ美味い。それだけで成り立つ組み合わせじゃわい」
なんて褒められてますし? 俺もかぼちゃのタルトと一緒に紅茶をば。
「……ほぅ」
口から空気が漏れる。
ていうかなんだろ、美味い。
美味いんだけど……何と言うかそれ以上に……すっごいリラックスする。
かぼちゃのタルトは、その甘さをかぼちゃに一任しているのか甘さ控えめ。
その代わり、濃厚なかぼちゃの味と滑らかさ、香りが口に入れた瞬間に口一杯に広がって。
タルト生地はかぼちゃには無い香ばしさとサクサクとした食感、バターの香りをプラス。
そこに流し込む黄金糖の紅茶は、マジャリスさんが言うようにぜんっぜんタルトの邪魔をしてなくて。
紅茶の味わいも含めて、一つの作品として完成されるような、そんな感覚。
海外の有名な絵画を存分に堪能したような、確かな満足感を覚えるような、そんな組み合わせだった。
――まぁ俺、そんな絵画を堪能するほど興味は無いんですけれどね、ガハハ。
「カケルも楽しんでいるな」
「すっごい美味しいです」
紅茶もタルトも。
というか、なんだよ、異世界にも美味しい紅茶あるじゃん。
わざわざ現代の紅茶とか飲まなくても、これを飲めばいいのにね。
「カケルが何を考えてるか分かるから言っとくが」
「この紅茶、貴族でも取り合うレベルで希少だから」
「――へ?」
「宝石と並べて、どっちが欲しい? と聞いても茶葉を取るくらいには希少ですのよ?」
「――マジ?」
「マジ」
これを飲めばいいとか言ってサーせんっしたぁっ!!
え? ていうかそんなレベルの茶葉を飲ませていいの?
アカン……一気に紅茶の味がしなくなった。
「飲んでいいと言われたのだから気にせずに味わって飲めばいいのですわ」
「リリウム、カケルをお前と一緒にするな」
「どうせ袖の下だし大っぴらには楽しめない代物。この場所が消化するのに丁度いいと判断しただけ」
「証拠隠滅に加担していると考えたら、ちったぁ味が戻るか?」
戻ってたまるか。
後言い方ぁっ!!
証拠隠滅に加担とか、どう考えても悪い言い方でしかないでしょうが!
もう少し言い方をですね……。
「ふぅ。美味しかったですわ」
「かぼちゃ、これほど甘さがあればスイーツにも引っ張りだこだな」
「甘くなるように品種改良する?」
「農業ギルドも何だかんだ忙しいんじゃねぇのか? 米だのワイン用のブドウだの」
「いっその事、同盟国同士で分担して研究を進めた方が早い気がしますけれどね」
「貿易摩擦一直線にしかならない」
たまに異世界組の話す内容が他人事じゃない時あるよな。
いやまぁ実際、おもっくそ俺が提供した情報だったりでそうなるわけだから他人事ではないんだけれども。
「ま、私には政治は分かりませんもの。ソクサルムに任せますわ」
「ソクサルムに私の言う事全部に首を縦に振るよう言っといてくれない?」
「どう考えても自国有利の交渉にするつもりだろうに」
「それくらいしないと国力が釣り合わない」
「つーか、あんたも一応昔は軍師だったんじゃねぇのか?」
「ずっと昔ですわよ。それに、兵站と政治は違いますわ」
軍師ってあれだよね。
戦場で指揮を取って勝利に導く~的なイメージが強いけど、戦争の為の資金繰りから兵站と呼ばれる輸送や遠征、陣地設営から兵員の展開とかの方がメインなんだよな。
プロは兵站を語り、素人は戦略を語る。なんて言葉もある位。
まぁ、それを転移魔法で一人だけというか、一国だけチートしてたから無双してたみたいですけれども。
「よし、カケル」
「持ち帰り料理……ですね」
俺がタルトの最後の一口を食べたのを見計らい、ラベンドラさんが声を掛ける。
だが、
「紅茶が残ってるのでこれを飲んでからでもいいです?」
「うむ」
まだ俺には紅茶が残されている。
――さて、と。
……紅茶を飲み切る前に、今日の持ち帰り料理を考えなくては……。