色々初登場
……2kgの氷って一日で無くなることあるんだ……。
それも、用途がかき氷に限られてるのに。
「ふぅ」
「ちょいと頭にキーンと来るのぅ」
あんだけ食べといてちょいとで済むんなら十分過ぎるほど頑丈なのよ。
……後半からみんなアルコールかけて食べてたから、ほとんどカキ氷用シロップが減ってないんよな。
おかげでリキュール類は全部なくなったけど。
「氷を削っただけ、と思っていたが、これはこれで美味かったな」
「良くも悪くもシロップに影響されますけれどね」
「そうでもないぞ? 氷自体に雑味が無いからスッキリとした後味がある。水に変な臭いが付いていれば、そうはならないだろう?」
「確かに」
「加えて、氷が溶けにくく、長く残っていたのもポイントだな」
「ちなみにですけど、凍らせる水を砂糖水にすると、もっとサラサラとした食感の氷になるそうですよ?」
「……ほう」
俺の知識はバラエティー番組だけどね。
ついでに言うと試したこともない。
「これは早々にレシピを広めなければな」
「暑い地域では売り上げが伸びそうですわね」
にしても、かき氷も異世界に進出か。
現代から異世界への輸出が止まんねぇな。
「よし。カケル、持ち帰り料理だが」
「どうしましょう?」
デザートも食べ終わったので流れは持ち帰り料理。
ただ……特に思いつかないな。
あ、つくねを一杯作って持ち帰ります?
「その……カレールーを貰えないか?」
「……ほぅ」
いや、待て。
まだ分からん。
俺が姉貴のリクエストとは別に、カレールーを買って来たという情報は、ラベンドラさん達は持ち合わせていないはず。
まだ隠し通せる。
「先ほどシメのカレーを作る時に、そこの棚の中に見知ったパッケージを見た。あれは、私たちが初めて食べたカレールーのものだ」
バレてました。
いやまぁ、カレールーならまた買いに行けばいいんだけどさ。
「ドウゾ」
「すまないな、カケル。恩に着る」
「それ、俺らにも欲しいな」
「独占禁止」
という『無頼』アメノサ組の要望で、俺が蓄えようとしていたカレールーが空っぽに。
明日補充しに行こう、うん。
ちなみに渡したのは南の島がパッケージになっている、大人の辛さのカレールー。
結局これが一番美味い。
ちなみに辛口。
「では、カケル」
「またよろしくお願いしますわね」
「あ、明日には私いないから」
「姉上殿、また会う日まで息災での」
「良き巡り合わせがありますように」
「ゴー君が宝石合体出来るようになったし、そこそこでまた帰ってくるわよ」
あ。
「は?」
「待て待て待て」
「今、何と?」
姉貴の言葉の真意を聞こうにも、既にみんな魔法陣に入っていく動作の途中。
エルフは急には止まれない。
そのまま紫の魔法陣に吸い込まれていく。
……明日来た後の追求が怖いなぁ。
*
「クニノサ、これ食べて」
「また急だね。……これは?」
「あっちの国で食ったカレーだよ。つっても、そのカレーより幾分もうめぇがな」
『無頼』アメノサは異世界に戻り、自分の国へと移動して。
通常よりも数倍の歩幅のスキップで、調理場に移動。
即座に人払いをし、カレーを調理して……。
自国の王、自身の兄である『クニノサ国王』を調理場に招き入れる。
「どうやって……とは聞かない約束だったね」
「変な手段は使ってない。約束する」
旧知の仲のように、『無頼』、アメノサに馴染むクニノサは、言われるままにカレーに口を付け……。
「……辛い」
「大人の辛ささ」
「でも、辛いだけじゃないね。酸味があって、甘さもあって、何よりスパイスの香りが複雑だ」
「はい、お水」
「ありがとう。でも辛い。何とかしてほしいなぁ」
「無理、諦めて」
「一応、作る過程で果汁や蜂蜜、牛乳なンかを入れると辛さが和らぐらしいが」
「次からはそれでお願いね?」
辛さを堪え、時には舌を口の外に出して辛さを誤魔化し。
水を飲んで、カレーを頬張る。
そうして、食べ終える頃には額に大粒の汗をかいていたクニノサは。
「美味しかったよ。ご馳走様」
「お粗末様」
「やっぱり、こうして二人がいる所で食べる方が安心出来るなぁ」
「そうは言ってもなぁ。俺は国の闇の部分で、アメノサは政治の重鎮。国王様と肩を並べて食事を出来るような立場にねぇよ」
「国王様、なんて言い方はやめてよね。昔みたいに、クニ坊とかでいいじゃない。どうせここには三人しか居ないんだし」
それぞれの立場の都合上、滅多に出来ない事を口にして。
「職務は問題ない?」
「どこかの丞相様の仕事が、最近は遅れ気味な事くらいかな?」
「うぐ。……明日提出するから」
「あまり仕事溜めてやンなよ。クニノサが困ってるだろ」
「『無頼』は黙ってて」
なんてやり取りの後、クニノサの表情が元に戻る。
すなわち、カレーを食べ、談笑していた緩んだ表情から、国の代表――国王に相応しい表情に。
「またこうして食事がしたいね」
「頑張って都合は付ける」
「食材の確保なら任せとけよ」
「良き臣下を持てて幸せだよ」
「たまには、休む」
「その言葉はそのまま返すよ。決して無理はしないように」
そう言い残し、クニノサはゆっくりと調理場を後にする。
『無頼』の姿にそっくりな、その身を翻して。