ここで入れ知恵を一摘まみ
「つくづく思うが、俺たちの世界とは違い過ぎるんだな」
ようやく納得してカレーを食べ始めたラベンドラさんの第一声が、ソレ。
結構長い事興奮してたみたいだけど、ひとまずは落ち着いてくれたみたいだ。
ゴロゴロとしたジャガイモや人参をスプーンに乗せ、観察したりしながら食べてる。
多分だけど、どんな風に切られてるのかを確認してるんだと思う。
でもさぁ、正直カレーに入れる具材なんて、どう切っても美味しくね?
なんだったら俺、ほうれん草とか人参とか、ミキサーで全部スムージーみたいにして具無しカレーとか作ったりしたぞ?
ちなみに普通に美味しかった。
アレだ、野菜が嫌いなお子さんとかでも美味しく食べられると思うよ。
その分手間は増えるけど。
あと洗い物ね。
「カケル様? この赤いものは?」
「福神漬けと言って、食休めというか、アクセントというか、カレーとセットで食べることが多い漬物ですね」
リリウムさんの質問に答えながら、そう言えば福神漬けってなんでカレーと一緒に出るんだろうと疑問が。
小さい頃から当たり前にそうされてきたから、言われてみて気付いたわ。
あとで調べてみよう。
「コリコリとした歯ごたえと程よい塩味。確かにいいアクセントだ」
「こっちの丸いのはなんじゃい?」
ガブロさんからはらっきょうの説明を求められた。
「そっちもカレーの付け合わせに定番のらっきょうという漬物です。自家製ですよ」
らっきょうもご近所さんから貰うんだよなぁ。
土付いたままで。
だから洗って、自分でらっきょう酢につけてるんだよね。
これがまた美味いんだ。
市販のらっきょうより香りがフルーティーでさ。
日本酒のつまみにしても美味しかったけど、白ワインと結構合うんだよね。
当然カレーにも合うわけで。
「このらっきょうという食べ物はさわやかな香りが広がりますわね」
リリウムさんにも好評みたいだ。
それにしても、やっぱりカレーだよな。
いつもよりみんな色んな感想言ってるし。
「驚きなのはこんなに大量の種類の香辛料を使っていて、そのどれもが喧嘩していない事だ」
「確かに。香辛料は増やせばいいというものでもないからのう」
「きっと計算されつくした配合なのでしょうね」
「それがこのブロックをお湯に溶かせば味わえるというのだからこの世界の食に対する技術は相当なものだ」
ちなみに四人にはカレールゥの説明は既にしてある。
というか、その説明をしたからラベンドラさんが納得してくれた。
一つ封を開けて、匂いを嗅いでようやく納得、みたいな流れ。
「それにしても……辛みだけでなく旨味や甘み、酸味と複雑な味が調和したこのカレーという料理――再現は不可能だろうな」
「じゃろうな」
「でしょうね」
「やれるものなら、とでも言いたくなるな」
「そんなにです?」
なんというか、現代の日本に住んでる俺からすれば、にわかには信じられない事なんだけどなぁ。
カレーくらいって思っちゃう。
「少なくとも、再現に必要であろう材料の内、五つは古代の文献にのみ書かれているような魔物の素材が必要だ」
「ドラゴンとかです?」
俺の中のイメージ、ドラゴンって神秘とか、強さの最上級ってイメージなんだよな。
で、古代の文献にしか載ってないってのも頷けそうな神格じみたものがあるというかなんというか。
「いや、ドラゴンの素材も必要だがそれよりも珍しい魔物だな」
「ドラゴンは図体はデカいから目撃情報はそこそこにあるしな。尤も、討伐した、なんて情報は無いが」
「ラベンドラの言う素材はそうですね――言うなれば、目撃情報が極端に少ないせいで生態がまるで解明されていない魔物たちですわね」
「この間話した倭種というカテゴリーとほぼ同じじゃな。特殊な気候や土地に住むだろうという事以外一切が不明じゃ」
「じゃあ、本当に再現は不可能なんですね」
大変そうだな―って思ったんだけど。
そもそもさ、別に向こうの素材だけで再現する必要はないんじゃね? と思う今日この頃。
「じゃあ、持っていきます? カレールゥ」
「ほぁ!?」
いや、ほぁ!? って。
驚き過ぎて変な声出てますよー。
「いいのかっ!?」
「良いも何も、言った通り別に高級なものでもないですし、それこそ十五分もあれば買って来れる代物なので」
「え、遠慮なく貰っていくぞ?」
「どうぞ。あ、一つでいいです? 日持ちするから買いだめしとこうと思って結構買ったんですけど……」
「一つでいい! こんな香辛料の塊、持っていると知られたらどれほどの事をされるか分からん!!」
だってさ。
う~む、ここまで言われるとラベンドラさん達の異世界の事も気になってくるな。
まぁ、俺が行ったところで生き残れないだろうけど。
「あ、じゃあ一つレシピを教えますよ。これもこの世界で大人気な食べ物なんです」
とここで思いついた俺の考え。
それを、ラベンドラさんに伝えまして。
「コツは具をあまり欲張らない事です。はみ出したりしちゃいますから」
「……分かった。このレシピで作ってみよう」
「上手く出来たかどうか聞かせてくださいね」
カレーはとっくに奇麗に完食。
更にはお茶もしっかり飲み干し済み。
となれば後は帰るだけの四人へ。
「カレーが残ってるんで明日もカレーですけど、二日目のカレーはさらに美味しくなってるんで期待しといてください」
「ごくり」
「あと、トッピングも追加しますんで、どうぞお楽しみに」
「死んでも行くわい」
と、全員が何か決意をした見た目をしてたけど、カレーですよ?
なんて思いながら。
魔法陣に入っていく背中を見送った。
ラベンドラさん、ちゃんと作れるかな――カレーパン。




