影響力ぅ
「カケル、持ち帰りなのだが」
「どうしましょう」
本日のメニューは鉄板……ドラゴン皮焼き。
持ち帰る様な代物じゃないんだよな。
向こうで出来ちゃうし。
「いや、今回はいい」
「?」
「少し研究中の物があってな。こいつらをそれに付き合わせる」
「何をさせる気だ?」
ふむ……。
持ち帰りの料理を断り、マジャリスさん達を巻き込む研究……。
ズヴァリ、料理の研究ですね?
「お前らは飯を食うだけでいい」
「ならいいか」
ほらね。
……となると、一体どんな食材か気になる所だけど……。
「そして、明日の食事はすべて私に任せてくれ」
「……ほう?」
「こいつらに試し、レシピを完成させたものを振る舞おう」
「滅茶苦茶楽しみです」
明日振舞ってくれるらしいから、それまでのお楽しみって事で。
ん~……じゃあどうしようか?
「何かこちらで用意しておくものとかありますか?」
「そうだな。私の見立てでは赤ワインにすこぶる合う料理を作るつもりだ。だからその……」
「赤ワインですね、用意しておきます」
「うむ。では、カケル。また」
「お気をつけて~」
というやりとりの後、紫の魔法陣に消えていく五人。
んっふっふ~。楽しみですねぇ!!
一体どんな料理なんだろうなぁ!!
*
「はぁ……疲れた……」
「どこも似たようなもんだ」
「じゃが、こうしてサブマスターに仕事を任せて集まれる我々はまだ余裕がある方と思うが?」
「ギルドマスター定例会議の案内の返信が『無理』の二文字だった他と比べれば、だがな」
ニルラス国とある街、とある建物内。
ひっそりと集まったオズワルド、アキナ、ダイアン、カルボスターは、それぞれ机に突っ伏したり、肘をついてため息をついたり。
表情からは疲労の色が伺えるが、それでもこの四人はまだマシな方。
定期的……と言うには頻度が高すぎる、『夢幻泡影』から送られてくる様々な情報。
冒険者だけに留まらず、町の料理人や解体士、更には貴族すらも巻き込むその情報に当然冒険者ギルドとしては振り回されるわけで……。
「いや、醸造ギルドとか阿鼻叫喚らしいわよ?」
「新しいワインの製法をもたらされたのじゃったな。よりによって恐ろしく難しいとか」
「先日は蒸留なる方法で作る新たな酒の工程も持ち込まれたらしい。幸い魔道具が無く今は研究が止まっているらしいが……」
「ガブロがペグマ工房に魔道具の作成を依頼したと聞いた。新たな酒を作る魔道具だぞ? ものの数日で奴らは作る。そうなるとさらに研究対象が増える……」
振り回されているのは冒険者ギルドだけではないらしい。
「貴族からも突かれてないし、ギルド新聞よりかは遥かにマシか……」
『夢幻泡影』からの情報やレシピ、新たな発見を新たなコーナーとして設けたギルド新聞の売れ行きは爆増。
というか、これまでのどんな記事より反響が大きく、事実としてその一コーナーだけを目当てに購入する者が後を絶たない。
そして、その記事を書けるという事は、世に出るよりも先にその情報を知っていなければならないという事であり。
ギルド新聞は、ほとんどの貴族から情報の横流しをそれとなく言われていたり。
果てには他国の間者が情報を盗もうと忍び込もうとすらされる始末。
結果、ギルド新聞『夢幻泡影』コーナーの担当であるアエロスは、毎日居住を転々としながら記事を書いて投稿する、という生活を続けており……。
「ふぁ~。……皆さんお早いっすね」
こうしてギルドマスター直々の護衛に守って貰っている状態。
「いっそ国王にでも匿って貰った方がいいんじゃない?」
「考えたっすけどねぇ……」
アキナがため息交じりに提案するも、アエロスも返すようにため息を吐き。
「国王様やソクサルム様は物凄く信頼出来るんっすが……その……」
何やらもごもごと言い淀んだ後、
「あの場に居る調理士の方々の目と耳が怖くて……」
自分の持つ情報に興味を持つ存在が、多数身の回りに居る状況。
常人であれば、そんな場所にわざわざ身を置きたいとは考えないだろう。
「それもそうか……」
一同揃って深いため息。
「よし、切り替えだ。定例会議の議題に移ろう」
「前回の会議で『夢幻泡影』に触発されて実力に見合わないダンジョンでやられちゃうパーティに対する対策は話し合ったけど、成果は?」
「随分と減ったのぅ。やはりサンプルとして登場する魔物のはく製をギルドに展示するのは効果的じゃった」
「その分冒険者への依頼料で金は掛かったが、それで失う命が減りゃあ万々歳か」
「資金についてはうちのギルドから回すわ。水産資源が尽きない限り、こっちは潤沢だし」
「口出させて貰うっすが、そろそろ次の大会の概要だけでも決めてくれとソクサルム様からのお達しっす。と言ってもその件は『夢幻泡影』次第になるとは思うっすが」
この時、この場に居る五人はまだ知らない。
次の大会が、新しく出来る蒸留酒を使ったカクテル大会だと。
その為に、ペグマ工房総出で蒸留するための魔導具を作っている事を。
その際、ペグマ達を説得するために、ラベンドラが自作したジンでカクテルを振る舞ったことに。
そしてガブロが、ドワーフ連中に次の大会の為に金を溜めておけと通達した事を。
予め記しておくが、次の大会はこれまでとは比にならない程の金が動く大会となり。
売り上げに占めるドワーフの割合が、おおよそ八割であった。
そして、ドワーフが働く全ての工房の一角に、仕事後に酒が飲める場所が新設され。
その場所で働くバーテンダーが誕生することになるのであった。