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新幹線


 僕と西条が明るい車両に戻ると、沖田が寄ってきた。

「おい、本当に死体が消えているぞ。どこにもない」

「何の為に死体を隠す、あるいは捨てる必要があるんでしょうか?」

 柏と目が合った。

「隠したとか、捨てたんじゃなくて『食ったのかも知れませんよ』」

 確かに、新幹線に乗ってから、だいぶ時間が経つ。

 考えれば、お腹も減ってきた。

「大きさを考えてくださいよ」

「電車を異空間に移動させられるのだから、人ひとり、食うぐらいエネルギーを補給しないと」

 沖田がたしなめるように言う。

「バカなことを言ってるんじゃない」

「冗談でもそんなこと言わないで」

 沖田とほぼ同時に、池内がそう言った。

 僕は池内の方に顔を向けた時、西条の口元が笑っているのを見てしまった。

 この発言で笑ったのかと思ったが、西条の視線の先は違うところに向けられていた。

 僕は視線の先を確認した。

 そこでは、美木と東出が隣りに座り、談笑していた。

 いつの間に仲良くなったのだろうか。

 二人は時々顔を見合わせながら、体を近づけていく。

「……」

 僕がそれを見たのに気付いてか、西条は自らの座席に座ってしまった。

「とにかく、どこにも死体がなかったと言うことですね」

「早く犯人を探さないと『死体(てがかり)』も無くなっていくぞ」

「死体が、犯人を見つける手がかりとなるから、消したんでしょうか?」

 沖田は不機嫌な調子で言った。

「知るか! 何でも質問調で聞き返してくるな。まず自分で考えろ」

 僕はこの老人と会話するのに疲れ始めていた。

 自らが死体のことを『てがかり』と言ったのではないか。

 そう思う節があったからだと思うのだが。

 急に、西浜が立ち上がるので、僕は聞いた。

「どうしました?」

 僕の声には答えず、西浜は大きなトレンチコートを羽織った。

「……」

 視線に気付いたのか、西浜は座りかけて止まった。

「ああ、この車両、寒いもので」

 車両のことを質問されていると思ったのか、柏が言う。

「オートエアコンの筈ですが…… 機械が壊れているのかな」

「逆に、明かりが消えている前方の車両は暖かいですよね」

「環境的に寒くなっているわけではなさそうですよね。やっぱり、機械が壊れたんだ」

 柏がそう言うと、僕も含めて、誰も話さなくなった。

 僕は自席に戻ると、荷物から予備のスマフォを取り出し、スマフォスタンドにセットした。そして、通路側の肘掛けにスタンドごとくくりつけた。

 柏が座席から顔をヒョイと出して訊いてきた。

「何してるんですか?」

「監視カメラ代わりにスマフォで録画しようと思って」

「へぇ。神のような相手がスマフォに映ればいいですけどね」

 僕がムッとした表情を見せると、柏は黙って首を引っ込めた。

 スマフォに入れていた録画アプリを起動させ、止めて、録画がされることを確認した。

 西条が、立ち上がると、前の車両の方へ歩いていく。

 僕は声を出して訊いた。

「西条さん、トイレ?」

「……」

 彼は顔を僕の方へ向けたが、何も答えずに出ていってしまった。

 すると、今度は東出が立ち上がった。

「寒い! 寒すぎる」

 自らの肩を抱き、大袈裟に震えた。

 東出の表情には、笑みのようなものも見えたが、そのまま前の車両の方へいってしまい、どうして笑っているのかは、よくわからなかった。

 東出が車両を出てしばらくすると、今度は美木が立ち上がった。

 そもそも露出が多いセクシーな服を着ている彼女も、寒かったのだろう。体を震わせて、前方の車両へと歩いて行った。

 僕はその後、ずっと前方を注視していた。

 トイレ使用中のランプはつかない。

 やはり寒さを凌ぐために、暗い車両の方へ行ったのだろう。

 またしばらくすると、今度は池内が前方の車両へ歩いていった。

 僕はぼんやりと前方を見ていたが、変化はない。

 長時間電車に乗っていると普通は…… とそこまで考えた時、大きな声がした。

「全く! タバコを吸う連中は、暇を持て余して、ずっと喫煙室にこもっているのだな。この状況下で、あまり暗い車両にずっといるべきではない。注意してこよう」

 沖田がそう言って前の車両へと歩いていった。

 そうか。西浜は確か、タバコを吸う人だった。

 温まりに行った以外の理由として、タバコの可能性もあるのだ。

 他に誰が喫煙者だったのか、確認しておくべきだった。今更ながら、そう思った。

 僕は額に手を当ててため息をついた。

「どうしました?」

 柏が通路の方に顔を出して、僕を振り返った。

「お話しましょうよ」

 メガネをクィッと指で押し上げると、柏は勝手に話し始めた。

「この列車は、新幹線ですけど『新幹線』って何だか知ってます?」

「どういう意味?」

「定義があるんですよ。しかも法律で」

 僕は三人席の通路側にいたが、柏は横の二人席に下がってきた。

「それは『全国新幹線鉄道整備法』って言うんですけどね。そこには『主たる区画を列車が時速二百キロメートル以上で走行できる幹線鉄道』とあるんですよ」

「へぇ」

「だから、最初にできた新幹線も二百キロ出ていたってことですよね」

 当然と言えば当然だが。

「ちょっと前に僕言いましたよね。本来ならいろんな安全装置が働いて車両が止まるはずだって」

「ああ、デッドマン装置がどうとか」

「そうですね。それと新幹線には自動列車制御システムがあって……」

 柏は楽しそうに話し続けている。ATCがどうとか、CTCが、あれで、とか、PTCってのが凄くて、とかとか。

「そう言うのをどうやってこの空間で誤魔化して走行させ続けているのかとか、不思議でたまらないですよ。そもそもこの二万五千ボルトの交流電気をどうやって維持しているのかとか。異空間にも二十キロ毎に変電所を置いているんでしょうかね?」

「いやいや、異空間だからそんなことどうでもいいんじゃない?」

「けど床下からモーター音はしっかり聞こえてくるわけですから、車両に電気を流してますよ」

 こういうのがオタクと言うのか。

 僕はふざけた考えを言ってみる。

「この異空間を使えば、リニアなんか作らずとも超高速で移動できるんじゃないかな」

「おお、そうですよ。異空間を通して静岡を丸ごと飛ばしてしまえば面倒なことは全て解決ですね。まあ、そもそも『のぞみ』は静岡に止まってないんですから、リニアは最初から静岡を丸ごと迂回して着工すれば良かったんですよ」

 そんな風に柏との鉄道に関する会話がしばらく続いた。




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