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 まず最初に僕の荷物が晒された。

 服や肌着、カメラと傘が広げられ、最後に土産物の箱が、ポンと置かれただけだった。

「なんだ、観光旅行の帰りか?」

 沖田に言われ、僕は答えた。

「ええ、色々と回って、帰るところだったんです」

「博多からの新幹線だ。皆んな帰りだろうさ」

「そうとは限らないでしょ?」

 沖田はそっぽを向いた。

「これで僕は凶器を持ってはいないことが証明できましたよね」

 次に、沖田の身体検査と、荷物の確認をした。

 僕と同じような物が並べられたが、一つ一つの高級度が違った。

「沖田さんも観光ですか?」

「……そんなことに答える必要はない。犯人かどうかが分かればいいだろう」

「どちらに帰るんですか?」

「何故帰ると決めつける? それについても答える必要はない」

 入っている服は、一度使った感じがあるからだ。これらをもう一度着る、というなら別にして、これから初めて着る感じの服はない。

 淡々と荷物をしまうと、次の男性のところに行った。

 次は、暗い車両で女性が犯されようとしているのを『覗いていた』という男だった。

「すみません、お名前は?」

西条(さいじょう)圭介(けいすけ)です。僕も一人旅の帰りですよ」

「一人旅。ですか」

 荷物を広げていく。

 沖田は充電しながら、スマフォで写真に収める。

「スケッチブックとか、ペンとかありますね? 失礼ですが、お仕事とかお伺いしてもいいですか?」

「服のデザイナーをしています」

 へぇ、と思ったが、背後から声が上がった。

「えっ? デザイナーで西条圭介って、あのイーライの?」

 そう言ったのは、池内エレナだった。

「そうなんですか?」

 僕がそう訊くと、少しだけ口元が緩んだ。

「そうですね。あまり名が知られていると思ってなかったのでびっくりしましたが」

「そんなことないでしょう? ブランドとしては高級なので、何着も買えないですが、私も一着、持ってます」

「ありがとうございます。一着と言わず、また買ってくださいね」

 エレナは笑顔を返した。

 西条の荷物にも、凶器のようなものはなかった。

 彼の持っている服はどれも綺麗に畳まれていて、行きなのか帰りなのかは区別がつかない。

「どちらに行かれる予定ですか?」

「東京に帰る予定で」

「飛行機ではなく?」

 忙しい売れっ子デザイナーなら、飛行機を使うのではないか、と思ったのだ。

「どうも飛行機が苦手で」

「博多へはお仕事で?」

「仕事もありましたが、観光もしましたよ」

 彼は荷物をしまいながら、言った。

井実谷(いみや)で流しそうめんも食べました」

 一瞬、荷物を覗き込んでいた沖田に動揺が見られた。

 僕はその言葉で思い出したことを言った。

「ああ、あそこはびっくりしました。平地が続いていると思っていたら、突然、大地が割れ、谷になっている。谷底の方へ降りていくと、上で見たよりずっと広がっていて、あちこち建屋があって……」

 僕の言葉を、西条が引き継ぐ。

「その建屋が、どれもこれも流しそうめん屋でね」

 そう言って笑った。

「……」

「唐松さんは、本来あそこがどんなところだったか知ってますか?」

「いえ、知りません」

 西条は何か雰囲気を感じて、口を閉じた。

「あの、西条さん?」

「あまり大声でいうことでもないので、もし興味があったら後で教えますよ」

「おい、次の者を調べよう」

 そう言う沖田に、僕は腕を引っ張られた。

 西条の視線から、口を閉ざした原因が沖田にあるように思えた。

「荷物を見せてください」

 僕はとく頭の東出さんにそう言った。

 荷物を広げてくれた後、沖田は服の上からアチコチ叩くようにして身体検査を始めた。

 着替えは使っている様子だったので、僕は訊ねた。

「服の使用状況からすると『帰り』なんですね」

「仕事の帰りです。データセンターに用があって」

 東出は、気付いたように手を合わせると言う。

「さっき話していらした『井実谷』、我々も行きましたよ」

「我々というのは?」

「三島と、柏さんです」

 すると、柏がメガネの蔓をクィッと上げて言った。

「三島さんと東出さんは同じ会社の人で、私は仕事を依頼した方の会社の人間です」

 『我々』と、ひとまとめにされるのが嫌だったのか、それとも正確に説明したかったのか。

「井実谷では何を」

「我々も流しそうめんを食べました。井実渓谷も観て回りましたが」

「ここまで来ると、もしかして『井実谷』が関係しているのかも知れませんね」

 身体検査が終わり、東出は荷物をまとめ始めた。

「実は、食べたのはそうめんではなく『そうめんに似た何か』を食べてしまったのかも知れませんね。重大な秘密の入ったナノマシン入りそうめん、とかね」

「それなら、もっとまともなやり方で追跡すると思いますよ」

「でも、取り立てて変なことはありませんでしたよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 次に僕と沖田は、柏のところへ行った。

「もう説明はいいですよね。荷物は見てもらうとして」

「柏さんも仕事帰りなんですね」

「そうです」

 そして、井実谷に立ち寄っている。

 ホラーか何かなら、その村にまつわる恐ろしい過去の話があり、禁忌とされていることがあるのだが、観光で訪れた誰かがそれを侵してしまった…… とかがきっかけだろう。

 本当に井実谷に何かあるとすれば、さっき西条が言っていたことが気にかかる。

「おい、馬鹿なこと考えてんじゃないよな」

「沖田さん、急にどうしたんですか?」

「同じ観光地に立ち寄ったからって、車両に閉じ込められていたらキリがない」

 沖田と井実谷の繋がりも気にかかる。西条の口を重くさせたのは、間違いなく沖田だからだ

「僕も井実谷を知識として知っていた訳じゃなくて、今回、立ち寄ったから覚えていただけです。沖田さんは立ち寄ったりしていませんか?」

「……」

 顔を背けられてしまった。

 この件を沖田に確認するのは、時間を開けてからにしようと決めた。

「三島さん、すみません、お荷物と身体検査を」

「状況は説明しなくていいよな」

「何か、特別、違ったことがあれば聞かせてください」

 三島は、髪に手を触れながら、何か考えているようだった。

 そしてじっと沖田の顔を見てから言った。

「……なにも付け加えることはないな」

 何か隠しているとしか思えない。

 沖田と井実谷に、一体どんな関係が何があるのか。

 僕の視線に気づいているようだが、そんなことは無かったかのように言う。

「これで荷物と身体検査はおしまいだ。このままだと、凶器を持っているとすれば女性ということになるな。そっちの状況はどうだ?」




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