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殺人ゲーム


 沖田がスマフォで座席の様子を、一つ一つ映像に残していく。

 僕はカードが証拠品であっても、指紋や付着した血液などから何かが分かるなんてことは一切ないと思っていた。残っていても無意味だからだ。

 口に出して理解されるか、分からないので言わないことにした。

 どういうことかというと、現状からして、犯人は『神』というぐらいの存在だ。

 大勢の乗客から、この数十人を残したこと。

 車両を二つだけ(いや、前後にも車両があるかもしれないが、移動できないので分からない)残して全速力で走行させている。

 そんなことが実現できる出来る者が、カードの指紋を指摘されたからといって罪を認めて刑務所に入るだろうか? いざとなれば、証拠品を根こそぎ、何もかも消し去れるような、人を超越した存在のはずだ。

 つまり、このカードは、絶対的な力を持った存在が、ちっぽけな人間に与えてくれた『一縷の望み』という意味しかない。

 これが何のゲームか、解けたらチャンスをやろう、ということなのではないか。

 僕はそう結論づけた。

「……犯人を正確に当てたら、ゲームマスターが僕らを助けてくれるに違いない」

 自分自身に言い聞かせるように、声に出して言っていた。

 白ヒゲの沖田が聞いていたらしく、僕に言った。

「また気が狂ったようなことを。リスキリングもせず、暇だと言ってスマフォで遊びまくっているから、頭が変になるんだ。この国は本当におしまいだ!」

 沖田が騒ぎ立てる中、僕の肩に手を置く者がいた。

「可能性はあると思いますよ」

 メガネの柏だった。彼は沖田に顔を向け、言い放つ。

「この状況、人間が作り出すことが出来るものじゃないんだ。だとしたら、この殺人ゲームに勝つことで、すでに死んだと思われている人も含め、全員が救われる可能性があるってことも言えるんじゃないかと」

「ゲーム、ゲームと。付き合い切れん」

 沖田は呆れたようにそう言うと、座ってしまった。

「もしそうなら、外すわけにはいかない」

 ゲームと同じだとすれば、外した時はそれは人が人を裁いて殺していることになる。

 もしかしたら架空の世界で『ゲームに勝てば全員復活』なのかもしれないが、そうではないかもしれない。

 ここでの生き死にが『実際の出来事』だと思っていないと、簡単にゲームオーバーになってしまうだろう。

 ゲームならば会議をして敵(つまり犯人)と見立てた者を『追放』している。

 だが、もしこの新幹線の中でやるとしたら、何らかの方法で『殺さなければ』ならないわけだ。相当な心理的な障壁があるだろう。本当にそんなことをしていいのか? とか、そういうことだ。

「と、とにかく。ゲームであろうとなかろうと、犯人は探さなければ」

 沖田が言う。

「どんな理由にしろ、もう三人も殺しているんだ。捕まれば死刑だろうな」

 死んだのはもう四人になるが、殺されたのは三人、その認識でいいのだろうか。

「そうなんですか?」

「ニュースとかは一切、目にしないという(やから)のようだな」

 死刑制度があるというのは知っていたが、殺人の人数で死刑かそうでないという差が出るとは思っていなかった。

「少なくとも、犯人は『ナイフ』を持っているんだ。持ち物を検査すればすぐに捕まる」

 僕は前後、車両の座席を見回した。

 自分、沖田、三島、柏、東出、あとは覗きしていた者、この五名が男だ。

 タバコを吸いに行った西浜、名前を知らないお婆さん、暗い車両で男に襲われた女性、それと黒いセーターを着た人、この五人が女性だ。

「……女性もいますが?」

「気にするなら、女性は女性に確認してもらえばいい」

「誰が犯人か分からない状態で?」

 沖田は座席を平手で叩く。

「いい加減にしろ」

「わかりました、やりましょう」

 僕は妥協してしまった。

 僕は少なくとも犯人ではない。夢遊しているとか、複数の人格が入れ替わってなければ、だが。

 と、いうことは僕が確認できる人たちだけでも、持ち物が明確になればヒントになる。

 僕と沖田は車両内の先頭へ歩いて行った。

 すると追いかけてくるように服が破れた女性がやってきた。

「えっと何か?」

「そっちに行きたいんだけど」

 女性は停電の車両の方を指差す

「あの、これから皆さんにお話が」

「……お手洗い」

 女性は、睨みつけるように言った。

 僕と沖田は道を開けた。

「説明させてください。この前の車両で、さらに二人殺人がありました。これで三人が亡くなりました。凶器は刃物だと思われます。大変申し訳ありませんが、これから『身体検査』と持ち物の確認をさせてもらいます」

 前の方の女性が挙手した。

 それは黒いセーターを着た女性だった。

 僕は発言を促すように手を差し出す。

「えっと。女性の身体検査については、私がやりましょうか?」

 僕は考えた。現状、女性側で一番怪しいのは、今タバコを吸っている西浜だ。

 そう思った瞬間、後ろのドアが開いた。

「ちょっとごめんなさい、そこをどいて」

 それは西浜だった。

 僕は体を捻って後ろを確認した。

 トイレ使用中のランプが光っているのが目に入った。さっき出て行った女性が使っているのだろう。

「えっと、話が途中でしたね。そちらはお名前を伺ってなかったかと」

池内(イケウチ)エレナです。私の身体検査はどうしましょう?」

「何の話ですか?」

 西浜がいきなり話に入り込んできた。

「彼女の身体検査が必要なら、私がやりましょうか?」

「……」

 彼女が犯人なら、誰かに罪を押し付ける可能性がある。

「ああ、やってくれ」

 沖田がそう言って許可してしまった。

「はい、わかりました」

「ちょっと……」

「判断が遅くてイライラするんだ。さっさと男どもの身体検査と持ち物検査をしてしまおう」




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