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戻ってきた美木にかかる疑惑


 柏がAEDを持って小宮山に装着する。

 蘇生を試みるが、柏は首を横に振る。

「ダメだ」

 柏が胸骨圧迫をやめ、立ち上がるとどこからかカードが落ちた。

 見ると、そのカードも沖田の席にあったものと同じ『デバッガーズ』のものだった。

「……」

 僕は呆然と車両の前方を向いてたっていた。

 ランプが消えてしばらくすると、美木が戻ってきた。

 僕は美木の顔を睨んだ。

「?」

「あんたか」

 美木を処分しておくんだった。

 僕は本気でそう思っていた。

「何のことよ!」

「小宮山さんのことだ」

「えっ?」

 体を曲げて、美木は後部の座席の方を覗き見る。

「だって、私はトイレにいたのよ」

「美木さんと小宮山さん以外は、前方の車両にいた」

「違う!」

 女性の怒りが苦手だ。

 本当に動悸が激しくなる。

「ほら、それを見てよ、スマフォ」

 僕は震える手でスマフォを操作する。

 映像を再生すると、西浜が僕の座席近くに下がってきて、何か話している。

 やがて話疲れたのか、西浜は肘掛けに腰掛けてしまう。

 至近距離にいる西浜のせいで、通路の通行がほぼ映らない。

「どうなのよ!」

 美木がイラついた声を上げる。

「待って」

 そのまま西浜は立ち上がると、前方の車両へと移動していく。

 僕はこの一連の映像を頭に入れてから、西浜さんを呼んだ。

「西浜さん、ちょっと聞きたいことが」

「こっちの無実はどうなったのよ?」

「お願いです…… 黙っててもらえますか」

「弱々しいなぁ。そもそも、なんで唐松さんがリーダーみたいに振るまってるんですか? この人に任せているせいで、被害者はどんどん増えている」

「西浜さん」

 僕は手招きをした。

 西浜が近づいてくると、僕は言った。

「西浜さん、僕が沖田さんのところに行っている間の行動を話してもらえませんか?」

「私は、そこの唐松さんの席にきて、こっちに残っている人たちとお話ししてました。けれど、みんな暗い車両へ去っていくので、私も池内さんに続いて前の車両に移動しました」

「池内さん、それは確かですか?」

 前の方の座席で、池内が立ち上がると、後ろを向いて言う。

「ええ。はっきりとは覚えてませんが、美木さんは残ってたんじゃないかと」

「何言ってんのよ!」

「……」

 今、僕は犯人が誰か、確信に近いものを得ていた。

 しかし、僕に処分出来るだろうか。

 正確に言うなら、処分を納得させられるだろうか、ということだった。

 半ば、勘のような部分もある。

 それとは別に、一つだけ、確かめたい事項もあった。

 これが『デバッガーズ』なら終盤、大詰めといったところだ。

「唐松さん? 私を処分しようとか思ってないわよね」

 美木が、僕に近づいてくる。

 怒りで裏返ったような声が、僕のトラウマを刺激する。

 僕は両耳を手と、腕で塞ぎながら、前方の車両を指差した。

「あっちで話しましょう」

「……」

 美木の目が泳いだ。

 泳いだ目が、どこを見ていたのか、僕は知っている。

 美木の態度が急変した。

「……ほら、ね? 僕を納得させる言い訳を聞かせてください」

 僕は前の車両へと歩き始めた。

 美木がついてくるのが分かる。

 車両と車両の間にあった、三島の死体が消えている。

 そう。他の死体も、死んだ順に消えていた。

 死体を消す意味がどこにあるのか。

 死体がどこに消えたのか。

 そもそも、どうしてここに残されたのか、と言う疑問から、全て含めて何もわからない。

 だが、僕は確認しなければならないことがまだある。

 暗く、暖かい車内。

 僕は三人席に入り美木の腕を取って引き入れた。

「君を抱きたかった」

「……」

 僕は美木を抱き寄せ、顔を近づけるが、美木は顔を背けた。

「逆らえないよな? どれだけ僕がキモくても」

 逆らえないのは、僕の指示(・・・・)ではないからだ。

 車両のドアが開いた。

 誰かが入ってきているはずだが、姿は見えない。

「ほら、しっかり君の体を感じさせてくれよ」

 美きの押し返そうとした腕が、だらりと下がった。

 イヤイヤながらも、美木の手が、僕の背中に回ってくる。

 僕は美木と顔を近づけながら、横目で周囲を確認した。

 いる。

 唇が触れる直前で、僕は美木の体を遠ざけた。

「西条さん」

 反応がない。

「いるのは分かってますよ。やっぱり、そうなんですよね。お二人は知り合いだったんだ」

 僕は一方的に喋り続けた。

 美木は顔を背けて、二人席へと下がっていった。

「あなたは、どうしても他の人に抱かれるところが見たかった。そういう性質(たち)なんだ」

 そう、ただ変な趣味があるだけで、西条も美木も殺人犯じゃない。

 つまり、僕たち三人は……

「いいですか? 敵は向こうの車両にいる。僕たち三人は人間だ。戻ったら、僕の意見に賛成してください。いいですか?」

 僕は美木に元の車両に戻るよう促す。

 西条は姿を表さない。

 僕は暗い車両の扉で振り返り、暗い車両へ向いて行った。

「ここに一人でいると、絶対殺されますよ」

 西条の反応がない。

 この車内にいるはずなのに。

「美木さん待って」

 僕は慌てて呼び止めた。

 美木が明るい車両に入ろうとしていたからだ。

 ここでバラバラになると本当に危険だ。

 もう一度、暗い車内に呼びかける。

「西条さん、時間がないんだ、ここを逃すと人数的に勝てない」

 もう一度、美木の方を向いた時、僕は違和感をもった。

 まさか、ここに隠れて……




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