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最初の投票


 僕は慌てて柏を抑えた。

 そして小さい声で言う。

「(なんでそんなこと言うの。本当に犯人を刺激することになるよ)」

 柏は僕の制止を振り切って続ける。

「どうせ殺害現場を誰にも見られてないんだから、わざわざナイフなんか使う必要ないでしょ?」

「やめろって」

 僕は言った。

 もし小宮山が言った通り『毒殺』なのだとしたら『ナイフを刺す』人と『毒』を盛った人間が別に存在するのかもしれない。

「直接、東出さんに毒を飲ませた、あるいは注射できたとすれば、美木さん、あなたしかいないんだよ」

「柏さん? 突然、どうしたんですか。美木さんは、持ち物検査で、ナイフは持ってなかったんですよ」

「ナイフが死因じゃないと言ったばかりなのに、なんでこの女の肩をもつんだ。唐松、お前が『ナイフ』で刺して、別の人が殺したように見せかけているんだろう」

「ぼ、僕が? 東出さんにナイフさせる訳ないでしょ? だって、一緒にこっちの車両にいたじゃないですか」

 この車両にいる段階でナイフを刺されていたのなら別だが。

「とにかく、犯人はこの美木だ。もう一人はまだわからないが」

 まさか、柏はここで『人狼』でいう『処刑』座席に置いてあったカード『デバッガーズ』でいうところの『追放』を要求しているのかもしれない。

 つまり美木を『殺せ』と。

 僕は美木については、誰かに『操られている』感じがしていた。

「待って、待って。毒って言ったって、即効性なのか効果が遅いものか、わからないじゃない。ここで飲食している状況もないし」

 僕は思いついたまま言う。

「毒を『流しそうめん』に盛られていたら? 僕ら、みんな毒が体に入っているのかも」

「おい、変なこと言うなよ」

 太り気味のスーツの男が立ち上がった。

 三島だった。

「東出と俺、柏さんの三人で食べたんだ。もしそうだったら俺たちもそろそろ毒が回ってくることになるじゃねぇか」

「じゃあ、ワシは死なないな」

 と沖田が割り込んだ。

 柏はチラッと沖田を牽制するように目をやってから、口を開いた。

「唐松さんも、もっと考えてから発言してくださいよ。前に死んだ刺青(タトゥー)の人と、前髪下ろしまくりの男、この二人も『井実谷』でそうめん食べてることになりますよ。そんな偶然を考えるより、この三人に直接関わっているのがこの美木って女なんだから、この女が犯人で間違いないでしょう」

 確かにこの何時間かで何度も襲われている。

 絶対的な力でコントロールされていて、皆に終末感が流れている可能性があるとしても、こんな場所で、何度も男をエッチな気分にさせるものだろうか?

「その考えもかなり強引ですよ」

「そうは思わないけど」

「今、この情報が少ない段階で犯人を決めていいか、多数決を取りましょう」

 僕は車両を見回す。

 誰が僕に賛同してくれそうか、考えてみる。

 さっきの調子だと沖田、三島は柏に賛成するだろう。

 しかし、池内、西浜、小宮山、の女性三人は少なくとも同性の味方になるのではないか。

 そうだ、女性の服をデザインしている西条も賛同してくれそうだ。これなら六対三だ。

「女性の皆さんは、美木さんは無実だと思いますよね? だって襲われたんですから」

 西浜が言った。

「襲われたから犯人じゃない、という言い方は引っかかりますが、証拠が少ない今、犯人を決める時ではないと思います」

「何言ってる、被害者と多くの時間を暗い車両で過ごしているんだぞ」

 柏の言葉に続けるように、池内が言う。

「現時点で判断するなら、美木さんが犯人の確率は高いとしか言いようがないです」

 まずい、これだと西条がこっちに来ないと逆転されてしまう。

 僕は西条に言った。

「西条さん、西条さんも美木さんが犯人じゃないって思いますよね?」

「……えっ? 棄権かなぁ」

「棄権ってことは、西浜さんと同じように、今犯人を決めないでいいってことでいいですか?」

 西条は首を横に振った。

「どっちにも投票できないってこと」

 一瞬、美木と西条は目を合わせた。

 美木は急に車両の後ろの方に歩いていく。

 このままだと四対四。

 本人の投票は無効だと言われたら反論できない。そうすると三対四になってしまう。

 絶対にもう一人、味方に欲しい。

「三島さんが言いたいことがあるみたいなんです」

 美木がそう言った。

 三島は、美希に押し出されるように車両の中央に近づいてきた。

 頭を掻きながら、三島はニヤニヤしている。

「俺は、彼女を犯人扱いするのには反対だ」

「三島さん、何ですか、急に。どうしたんですか?」

「柏さんには悪いけど、本人に事情を聞いて気が変わった」

 ほんの数十秒で何があったと言うのか。

 事情を聞いた? 二人の間で、何かやり取りがあったのではないのか。

 だが、この瞬間に採決しないと負けるかもしれない。

 僕は、チャンスとみて言った。

「採決しましょう。美木さんを犯人にしない、今回は投票しないと言う方」

 美木、西浜、小宮山、僕、そして三島の五人だった。

「美木さんを犯人として追放しようと言う方」

 柏、沖田、池内の三人だった。

「じゃあ、多数決で、今回は犯人としないと言う結論となります」

 柏がぼそりと言う。

「裁かれる側の投票を入れるのは納得行かないけど」

「本人のを外して勝っていますけどね」

 柏が僕の視線を外した。

「わかったよ」

「やったあ!」

 美木と三島は、喜び、ハグしていた。

 三島は懐柔されたのだろう。だが、それも一つの生き残りの方法だ。

 現時点で僕はそれを否定しない。

 しかし、本当に誰がやったのか。

 車両の設備から水は出るから、すぐに死にはしないが、最終的には飢えで全員死んでしまう。

 僕は車内全員の顔を見回した。




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