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episode 勇者の起床

 背が高い木の葉が天井を作り、隙間から木漏れ日が漏れる森の中を二つの小さな影が歩いている。

 男の子と女の子。二人のあどけなさが残る姿が映る。

 質素な服装で丈夫なブーツで落ちた葉と土を踏む。

 両手に花束やバスケット一杯に果物を入れて歩いていた。

「姉さんは昨日の夜、起きてた」

 男の子がバスケットを重そうだがしっかりと抱えて持ちながら隣で歩く姉と呼んだ同じ黒髪の少女に話しかける。

「起きていたけどどうかしたの」

「お願い事したのかなって」

 弟の質問に微笑む。

「へー、そういうの信じてるんだ」

「え、言いじゃん別に信じててもさ」

 思っていなかった返答だったのか少し不満げに弟は言う。

「ふふ、私もお願い事したよ」

「なんだよしてるじゃん……何願い事したのさ」

 姉は瞬きをする。

「言うわけないじゃない。願い事かなわないよ」

「え、そうなの」

 驚く弟に目を細目察した顔をする。

「お父さんかお母さんに言ったんでしょ」

「だって、だってさ」

 弟は眉を八の字にする。

「初めて見たしもうないかもだしお父さんもすごいことだって言ってたしさ……それでどうにかならないってわかってるけど、さ。元気になってもらえたらうれしいじゃん」

「……叶ったらすごくいいよね」

 何を願ったのか何も聞きはしなかったが、言わなくてもわかったことにすごく嬉しく思いほくそ笑んだ。


 森が開ける。

 広い湖が見えた。

 森の木々に囲まれたそこは、森の中より少しばかり涼やかだった。

 波打たない静かな湖畔に、人工的に作られたとわかる道があった。

 その道は湖にある小さな島に繋がっており、遠くからもわかるモニュメントが建てられていた。

「え、え」

 男の子がふるえた声を出す。

 手に持っていたバスケットを落としモニュメントに向かって走った。

 弟の異変に姉もすぐに気づき、花束を抱えながら走った。

「勇者様ッ」

 弟が血相をかいて走りながら叫ぶ。

 駆け寄る姉弟。

 島のモニュメントから液体が流れ出ていた。液体が流れている場所に結晶が花の様に咲いていた。

 モニュメントが正面を門の様に開いてスロープが出てきているそこに、中から伸びているチューブが液体を浴びる仰向けの人間に繋がれている。

 拘束具のような宇宙服を着た大きな人間には全身に毛が生え、頭部に丸い耳がありマズルがある。

 オルグの熊は胸を上下している。

「勇者様ッ」

 弟が大きな声で呼び熊の手を取る。

 服を濡れるのも気にせずに泥に膝をつき慣れた手つきで脈をとる。

「モニュメントのタービンも生きてる……システムも正常なのにどうして」

 姉はモニュメントのデータを一枚の板――デバイスからでてきた映像の様子をうかがいながら言う。

 熊が目を薄く開ける。

「朝、か」

 低い声がかすれたようにざらついて出てくる。

「寝て、いた、のか……外の空気を味わって、いたのにな」

「あまり喋らないで。シアト、お父さんたちに早く連絡しに行って、ここは通話できないから足早いでしょ」

「わかった勇者様すぐ戻ってきますから」

 ゆっくりと大きな手を下ろし、水を蹴って元来た道を一度振り返って走っていく。

「き、みは……ケイリ、か」

「いえ、ケイリは母の名前です。私はミナトと申しますさっき呼びに行かせたのは弟のシアトです」

「そうか、二人も……そんなに時間は経っていたのか」

 喋りにかすれがなくなり、低い声だが滑らかになっていた。

 ゆっくりと大きな体を起こす。

「それにしても俺が覚えてる彼女によく似ている」

 湿る毛皮の手をそっとミナトの頬へあてる。

「生まれてきてくれてありがとう」

 熊の顔が微笑む。

 ミナトは目を潤ましたが、泣くことはせずに微笑み返してから温かみを感じるように熊の手に自分の手を重ねた。 

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