求められるもの
「ヴァズロフッ」
アキラツが大きい口も目も開き目一杯叫んだ。
人影が店の崩れた壁から白い石が敷き詰められた広い道路へ飛び出すように走ってきた。
ヴァズロフだ。
その後ろから続いて黒で塗りつぶしたような人の形をしたしかし背丈の小さいモノが後ろから追っていた。
後ろから走って来たアオイが息を整えながら顔にかかる髪をかき上げて、顔をこわばらせる。
「なに、え、なに人、小さくて黒い」
アオイが状況を理解する前にアキラツは紙袋をアオイに押し付けて、太い脚に力を込め飛ぶように走り出した。
「アキラツくんっ」
アオイの言葉が耳に届く刹那に距離を詰めたアキラツは背の低い手足が生えたモノに、地面と水平になるほどその巨体をスライドさせ蹴りを浴びさせた。
吹き飛ぶ敵に見向きもせず、そのまま勢いが収まった体を片手で地面に突いて近くの敵に浴びせ蹴りをくらわす。
「どこか負傷したところはあるか」
前転からそのまま立ち上がり構えているヴァズロフの上から下をすばやく見てアキラツは言う。
「多少はな。まあ不意を受けた時ぐらいだ動けるさ。リュウセイが居れば出てくるモノかと思っていたんだが、違ったか」
アキラツとヴァズロフは背中越しで語り合った。
「目的がわからないな」
「レイ=ラスやホウジョウへの連絡は」
バイザーのテンプルを指で摩って見せる。
「さっきからしてるんだよなあこれでも、アオイッ、連絡をたの…っ」
バイザーから発色のある黄色味ある白の線が頭を四肢へ走る。
「何ィッ」
どちら共に困惑する声が漏れる。
黒い甲冑。瞬時に装甲に包まれた。
アキラツもまた金があしらわれた白い服に変わった。
「連絡が出来ていないのにこれは」
「どうして俺のも…っ、ヴァズロフッ」
一斉に敵がヴァズヴァロフに群がる。
腕や体にしがみ付こうとする敵を振り払う様に動き、アキラツも押しとどめる様に払っていくが、一体がヴァズヴァロフの腕にしがみ付いたと思えば人の形を変えて元々そうであったように装甲になった。
「なっ」
ヴァズヴァロフが驚愕の声が漏れる。
分厚く大きくなった腕がアキラツを殴る。
「アキラツッ」
巨体が宙に吹き飛ぶのを追うように叫ぶ。
アキラツは地面にぶつかる前に足で地面に着地した。
「俺を気にするなあッ」
口を切ったのか血を顎の毛を沿って伝うが気にもせずヴァズヴァロフに向かって叫ぶ。が、言うも遅かった。
勢いに乗って群がった敵にヴァズヴァロフは抵抗するが、動かせない手が死角となり足や胸、頭にまでその姿を同化させた。
一回り大きいヴァズヴァロフが赤い視線をアキツラに向ける。
「レイ=ラス達と合流しろアキラツ、アオイ」
ぎこちなく体を動かし近づくヴァズヴァロフから提案される。
「何時まで抑えられるかわからん」
「置いていけるかっ、アオイ連絡は」
「ごめん繋がらない」
アオイの焦る声が丸耳に届く。
ヴァズヴァロフに視線を向けながらアキツラは唸る。
「アオイ、君だけでも走れレイ=ラス達に連絡するんだ」
枝が折れる音よりももっと濁った音。そのように聞こえた。聞こえてアキラツの胸がざわつき毛が逆立つ。
ヴァズヴァロフが腕を垂らして歩いてくる。
赤い視線が笑っているようだった。
アキラツが声を出そうとした時、顔を鷲掴みにされていた。
大きくふりかぶって巨体のアキラツをやすやすと遠くへ放り出した。
放りだした方へヴァズヴァロフが走り出す。
「アキラツくんっヴァズロフさんっ」
電話は繋がらない、調子の悪いアキラツとヴァズヴァロフがおかしくなっているヴァズロフの安否。
不安が側にやってくる。
「今、私ができることは」
アオイは不安を押し込む様に模索した。
アキラツを追っても戦えない足手まとい、かといって今から父親の元へ走っても手遅れになるかもしれない。
リュウセイはいない。
「お店だ」
はっとして壁が崩れた店の中へ。
椅子もテーブルも考えてはいなかったが当たり前の様に壊されている。
紙袋をカウンターに置いて、レジの下に銃が筒の広い銃口をした銃があった。
銃弾も確認する。
外へ駆け足で出て、空に向かって引き金を引いた。
赤い煙を吐いて光を放った。
二回三回と打ち上げて同じように光を放った。
「ここ、まで」
できることが、ない。
不安に苦しくなった。
エンジンの音がした。




