prologue 流星ー2
星を見たか。
流れる星を。
星は常に流れることなくそこにあった。
だが今宵は違う星が流れた。
見るだけでも良い。それとも、古に従い願いをこうか。
流れる星に人はどのような色眼鏡を掛けるのだろうか。
星は瞬く間に落ちた。
「現場付近に到着した。カメラはどうだ」
ヘルメットを脱ぎバイザーをかけた男がバイクから降りながらインカムに呟く。周りは日が暮れてバイクが照らすライト以外全て暗く視界が狭まっていく。ハンドルのグリップを一本外す。手に収めたグリップから光が出る。ライトを顔の高さに上げて周りを照らし歩みだす。
空で光落ちた星を追って大柄な男はバイクを走らせ颯爽と現場へ一人辿り着いた。インカム越しに運転中、怒られながらも流星が落ちた地へと一足先に。
元の形が想像がつかないほどに崩れて、誰にも手入れがされないままに風化した地面に刺さる鉄の壁に沿って、大きな体躯は地面から生える力強い草を軍靴で踏みしめ、音を必要以上に出さず、警戒して進む。
しばらく進むと奥で光るのが見え足を止める。
目的の物なのか否か、近づくしか判断する術がなくインカム越しに説明し、気をつけろ、聞こえた声に一つ返事をし誘われるように歩みを続ける。
近づけば近づくほどに光が強くなると男の足が早くなる。
ライトの光を消し体が隠れるほどの鉄の壁に身を隠してから、バイザーのテンプルを指でつつきライトより明るくはないが視界の光量を増幅される。視界を確保して顔を覗かせる。
舞っている砂に邪魔されることなく良く見えた。
自然に見えない無理に広げた砂の窪みの中央で、廃墟に似つかわしくない台座の上に置かれたとも見えなくもない無機質な楕円の箱。金色に眩しく輝いている直立している箱。
このような物がここにあるのは今まで見た覚えがない。
昔の遺産。マシーンの脱出ポットがここにあるわけがなかった。
男は驚くが噛みしめ息を吐いた。
「カメラからも見えてるな」
男の質問に相手は肯定する。
「解析は任せたこちらは、接近する」
危険がないとは言い切れないが、現場にいるのは一人だけだがその為にいる。目的をこなさなければ意味がない。
テンプルを触り元の視界に戻してライトをつけ直すと砂の坂を滑り降りた。
地面から所々有機質な白い鉄の道が見え、坂道を滑りきると砂から剥き出しになった道を歩く。
トランスポートステーション。
箱に入らなくてもいいエレベーター。
非戦闘時の船舶間または艦内を移動する為の装置。指定した目的の場所へ空間を瞬間に移動する装置。だが、エンジンもなければ電気もないこの資材を取り出してきた船の抜け殻の機械がどうして動いているのだ。
男は近づき、物体を見ると触った。
温もりがある。
「ほう」
男はつぶやき思う。奇妙なものだ一体どうやって駆動しているのか。
男は腕に力を込めて押してみた。直立しているソレはびくともせず動くことさえしなかった。
光が強くなった気がした。
男は手を引っ込めた。機械は何も音も立てず変わりなく立っている。気のせいか、男は思った。
「一人で持っては帰れそうにないな」
冗談か本気か、顎に生えた髭をさすりながらインカム越しの相手に伝える。
音だ。話を遮るほどの不意な鼓膜を襲う金属音が響く。音の出所を見れば脱出ポットにしがみ付く黒い影がいた。
「なんだっ」
マシーンの脱出ポットよりも男は驚き声を上げる。
姿を確認する前にソレは姿を発光させる。何かを察したように男は身をひるがえしてその場を飛ぶように離れた。
背が焼かれるように熱い。
砂を転がるが素早く立ち上がって脱出ポットを見る。爆発の煙が霧散して見えたそれは外からは無傷に見えた。
どうしてか安心してしまった。
「あ、大丈夫かだって――生きてるよ。それよりカメラからは見えていたか該当はあったか」
叫ぶように言う。インカムからうるさいと返ってきた。
「該当なし――だがあれは」
一瞬だが見えた姿はたしかに覚えのある形をしていた。
インカムから疑問に同意する言葉が聞こえた時、耳にした金属音。光に目をつむり爆発の熱風が男の体を襲う。熱風にあてられながら「索敵」と声を絞りだした。目を細めバイザーで周囲を見渡す度に暗い外に輪郭が映し出される。
生体反応が感知されない。
「市長緊急事態ってことで提案がある。このままだと脱出ポットの回収がままならないのと未確認の鎮圧と回収もしなくちゃならない。ついでに僕の命も考えてもらえると助かる」
冗談交じりを聞いていた相手から溜息を吐かれて愚痴と共に許可が出る。さらに続く言葉にヘラりと口を緩ます。
「お、それはどうも――よろしく」
腰のポシェットへライトを仕舞いながら返答した。バイザーから発色のある黄色味ある白の線が頭を四肢へ走る。
瞬間、男は黒い甲冑に覆われる。暗闇の中で四肢へ伸びた線が発光し角の多い禍々しい鎧をより圧をのせていく。目のように残ったバイザーを光らせる。ライトがいらないほどに昼間の様に視界は開けた。
肘から地面へ伸びたツルギが光る。窪みの淵から体を覗かせる妙な物達にツルギを振るう。
遠くにいる相手へ届かぬ刃から光の刃が飛び立つ。翼を広げた鳥、そうとも捕らえられる刃は一瞬に間を詰めて届く。
光が弾ける。
やはりと、人間ではないことを確認できた。両肘のツルギの光が溢れるように荒波が立つ。勢いよく跳躍すれば両腕から光刃を周囲に一閃する。同時に奏でられた音楽は暴力的で空気を振動させ夜を昼間の様に明るくした。
着地し砂煙を上げる。自分よりも砂埃を巻き上げる周囲へ赤い目を向ける。周囲の熱源を押さえほしい光だけが目に届けられる。
爆発の中から一体また一体と駆けだしてくる。
砂を滑り降りてくる奴らにツルギを振るい光刃を飛ばす。
当たれば爆発させ簡単に倒せる。だが、多勢に無勢か一方からの進行ではなく周囲からの進行は光刃を飛ばすよりも直接切りつけるのが早くなるほどに、容易に接近できるほど手数が足りない。
ふぅ、仕方なしと男は息を吐く。
気合を入れるように掛け声を上げる。
鎧の黄色味ある白い光の線が緑の光に装甲が筋肉の様に大きく見せる。
鎧よりも強い光が一瞬の白を周囲に広がる――何が。
不意な光に発生元に目を向ける。マシーンの脱出ポットはなくなっていた。代わりに人型がいた――爆破されたか、いや、音も熱もこなかった――目を凝らす。
光がまだある。
金色の鎧に身を纏った黒い人型。鎧の輝きだけでなくそこに立つ者は光だった。
システムが生体反応を検知する。
男はその光に目を奪われていると、攻撃していた男を無視して通り過ぎる者たち。光に群がる奴らを追おうと背と脹脛の装甲を広げた時、先に光が動いた。
目に入るのは光の道筋。流れるような動きは静かに、今襲いかかってきている敵を倒す。
キレのある打ち付ける拳、迷いのない蹴り上げる足。慣れた動作は余裕があると見てとれて、攻撃をかわしながらそれらを敵に打ち付けていく。
敵は爆発しない。まるで霞の様に消えていく。
男の目に映る索敵から輪郭が消えていく。
「退いた、か」
退いたのか本当に、何かが変だ。いやそれより今は。
向き直る。
夜の中でたたずむ輝く人の顔は見えない。
「君は」
声をかけたその時には相手は目の前にまで迫っていた。
舌打ちにも聞こえる声を絞りだし相手の拳を拳で弾いて流す。構わずもう片方の腕が伸びるのが見え瞬間、拳を突き出せば、流れるように腕に片手をついて乗られてしまいそこから迫る蹴りを防ぐことができずに地面に砂に頭から打つように当りそうになるが、背の開けた所から火を噴きだして立て直して砂を滑る。
顔を上げれば、何か武道をたしなんだことがあるのかのように相手は構えていた。
渦を巻くように光が相手の片足に集まる。
男は唸りながらツルギを発光させる。
今にも飛び掛かりそうな相手だったが、頭を押さえふらつき光が四散する。するとその場で倒れた。
男はツルギの発光を収めて立ち上がり、近づいていく。
初めて相手の顔を見て、バイザーの中の目は驚くように目を開けた。
相手の頭を撫でる。
「こちらヴァズロフ。オルグのヴォルフハウンド、狼を一人保護する。医療チームを――早いな流石だ。一度撤収する調査は朝に」
そう言いつつも周囲を見渡し索敵する。地面に落ちている破片を見つけた。鎧の線が発光しヴァズロフは身に着けた鎧が剥がれるように解けていく。ポッシェトに仕舞ったライトを取り出し歯で噛む。倒れている狼のオルグへ身に着けていたジャケットで包んで抱きかかえて破片を蹴り上げて拾うと来た道を戻った。




