ひとときの旅路へ
狼は重い瞼を上げる。
寝起きの気だるさに引っ張れながら上半身をゆっくりと起き上がらせる。
いつもの部屋、寝る前に見た家具、机の上に寝る前に見ていた広がっている本。
昨日のまま。昨日のままだった。
目頭が熱くなる。
夢で見たあの人は、お兄さんは知っている人だ。
目から流れる涙が毛を伝っていく。
俺は…僕は…。
両腕で体を包む。
「リュウセイ君」
名前とノックが部屋に届く。
ノックがもう一度なってリュウセイは扉を見てから体を重たげに立ち上がらせて動かし、扉を開けた。
「起きてたかな。ヴァズロフさんが呼んで…どうした」
顔を見上げるアオイが頬に触れる。
「夢で、うん、嬉しいことが見れたんだ」
顔を悲しげなまま嬉しいとリュウセイは言った。
「ヴァズロフさんごめんなさい急な話で」
普段着ない少し大きいジャケットに袖を通して、バイクのリアシートに荷物をロックストラップで止めているヴァズロフに声をかける。
「まあ急だが行きたいっていうなら行かせてやりたいしな」
荷物を固定して軽くたたきながらヴァズロフは言う。
「この世界は広くない君の目的に合うものが見つかるかはわからないが」
「…見つからなかったらすぐにでも戻ってきます。でも、何とかなるって気がしているから」
大丈夫、と言うリュウセイにヴァズロフが肩をすくませる。
「もし」
低い声が上から聞こえる。
「湖の近くを通ることがあれば、その近くに住んでいるサザマ一家に元気にしていると伝えてくれるか、世話になったことがある」
熊の勇者が言う。
「場所はわかりますか。わかるなら寄ってきますよアキラツさん」
リュウセイが名前を呼ぶ。
アキラツ、名前を付けてくれと言われていた時から思い浮かんでいた名前。夢で見た知っている人と同じ名前。
どうしてもそう呼びたい、それでしかないとどうしても他の名前が浮かばなかった。
アキラツと呼ばれた熊の勇者は、耳を少し跳ねさせた。
「まだ、聞くには慣れないな」
「ご自身で望まれたことでしょ勇者アキラツ様」
冗談めかしに言ってみせるアオイに熊の勇者アキラツは、まあそうなんだがな、と困った顔をするが口元は笑っていた。
俺のわがままだけどもう少しだけ待っていてください必ず届けますから。
「どうした」
と視線に気づいたアキラツが問う。
「ん…待たせないように帰ってこないとなって」
「それは、そうだな」
「では、見送りもしましたし病院へ行きますよ」
「今日、もか」
「本来なら病院でしばらく入院のところをホウジョウさんが自宅から通って良いって許可くださっているからなんですから、嫌がらず行きますよ」
「嫌がっては、ないのだが」
アオイに押されるようにアキラツが歩きはじめる。
「リュウセイくんいってらっしゃい」
「行ってきますアオイさん」
挨拶を交わし後ろ姿を見送る。
「じゃ、俺も行きます」
「一応サザマんところの地図だ行くつもりなら後で見ておけ…やばい奴が来たら無理せずに逃げろよ」
地図をバイクのサイドに入れたヴァズロフの真剣な眼差しにリュセイは頷く。
「調査をしているが進展が思わしくないのは正直にすまないと思っている」
「…ヴァズロフさんが気に病むことじゃないのに、ちゃんと寝てくださいね帰ってきたら倒れたって言われたら驚きますから」
ヴァズロフが笑う。
「そんなことにならないように気を付けるさ。行ってこい」
ヴァズロフの言葉にマズルに笑みを浮かべてリュウセイはバイクに跨り走らせた。




