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白い舞台の上でー1

 一合、二合。

 打ち合いは続く。

 すでにいくつ打ち合ったかは数えきれない。

 どれほど体力があるのか音はまだ続いている。

 熊の勇者がはじめは優位といえるほどに慣れた動きでオルグの狼を翻弄していく。

 熊の勇者の剣筋は力づくであり繊細であり、技術のある芸とも見える。

 しばらくそう打ち合っていれば慣れ始めリュウセイが対応できるようになっていた。

「これをここでする必要があったの」

 どこから用意したのか椅子に腰かけ、二人の長い剣の打ち合いを離れた場所で眺めてアオイは言う。

「ずっと剣で打ち合っていて」

「まあ言うなって、何か勇者に気がかりなことがあるんだろうさ」

 魔王や悪役を一言で言い表せる鎧を全身に身に着けたヴァズロフが腕を組んだ姿で言う。

「そうは言っても」

 椅子からアオイは立ち上がる。ヒールの踵を鳴らして。

 椅子がするりと、地面へとけるように消えた。

「休憩はしないと」

 ヴァズロフを見上げて言う。

 そこにいなかった。

 そこにいなかったはず。

 アオイの横に現れた黒い人影。

 細身の体は包帯で巻かれたような姿で、顔に鼻も口もなくマスクをかぶったようであったが、目があるべき場所は一の字が溝の様に深く暗い。

 まるで最初からそこにいたように自然とたたずんでいたが、足を一歩動き出した。

 気配を感じブロンドの髪を揺らして体を振り向かせたアオイは翡翠色に輝く瞳を収めた目を見開いた。

 ヴァズロフの目に映ったそれは瞬時に解析され生体反応を映し出されなかった。

 アオイが声を上げる前に、ヴァズロフがアオイを引き寄せながら、残ったツルギを突き入れる。

 突くよりも相手の動きは早かった。走り始めたのだ。

 ツルギは空を切る。

 遅れて出たアオイの小さな悲鳴に二人のオルグは打ち合いを止めて視線を向ける。

「勇者ッリュウセイッ」

 ヴァズロフが叫ぶ。

 向かってきた不審者に熊の勇者が素早く剣を振るう。

 リュウセイを相手していたよりも素早く鋭い剣閃。

 加減していたのがわかる太刀筋だ。

 相手を寄せ付けない間合いを取ってリュウセイを守るように立ち回る。

「アオイ、君は戻れ」

 ヴァズロフが普段より早口で言う。

 こめかみを抑え呼びかける。

「ホウジョウ聞こえるかホウジョウ」

 何度も呼びかけるが返事がない――通信は繋がっているのになぜ――通話を諦めて勇者に視線を向ける。

「アオイ離れるな」

 歩を進ませアオイの前に立つ。

 どうする。

 勇者と正体のわからない敵。誰を標的にしている。

「私は平気」

 アオイがヴァズロフの腕を掴む。

「向こうに、リュウセイ君たちを助けて」

 アオイの揺らがない目を見てヴァズロフは頷いた。

 金属の乾いた反響音が聞こえるのも同時。

 剣にもたれかかるように膝で立つ熊の勇者の姿があった。

「勇者っ」

 どうしたんだ。

 アオイにもう一度視線を向けてヴァズロフは走る。

 白い舞台は遠近感を狂わせてくるが、近くはないが遠くはない。

 外部から承認をもらわなければ鎧の制限セーフティを解除はできない。

 膝を落とした勇者を無視し、リュウセイに向かって歩き出す。

 その足を勇者が捕まえて止めた。

 敵は手を出さずに振りほどこうとする。

 なぜ勇者に攻撃しないのか――わからない。

 だが、好機であった。

 疾走したままヴァズロフは残ったツルギを背後から振り下ろす。

「なにッ」

 振り向きもせずツルギを掴まれた。

 振り切れずぶつかった音は金属音。

 あの時の奴らと同じなのか。

 力を込めて押し付ける。

 もう一人の勇者も好機を逃すほど臆病ではない。

 ヴァズロフに渡されたツルギをリュウセイが振り下ろす。も、やはり止められる。

 空いた手でがっしりと。

 敵はリュウセイを投げた。

 目のない溝がヴァズロフと勇者を見る。

 邪魔と言わんばかりに細身なのに力強く乱暴に振り払われる。

 ヴァズロフも投げられ空を飛ぶ。

 熊の勇者は地面を転がる。

 リュウセイは地面にぶつかり転がるがすぐさま立ち上がった。。

 鎧の足から火花を散らし倒れず立つヴァズロフと全身に力を籠めるように震わせて立ち上がる勇者。

 万全な状態ならばと、ヴァズロフと熊の勇者は思うがお互いに顔を見合わせ肩をすくませた。

 理由は分からない。だが、リュウセイが狙われているとわかった。

 ならば行かねばと二人は動いた時、リュウセイから光が溢れていた。

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